交渉決裂
ランドラゴンの陰に隠れ、美玲たちはその様子を伺う。二人の様子は昔からの知り合いのようにも見える。
「貴様が人の子を隠していたとはな。さぁ、早く人の子をこちらに渡せ」
冷たく見下ろしながらいうジャニファにネフティは不敵に笑った。
「断る、と言ったら?」
「そう言うと思っていたよ。ならば力ずくでいくまで!紫雷電!」
ジャニファが両手を振り下ろすと紫色の稲光りが轟音と共に降り注ぐ。
あまりの激しさに美玲は耳を塞ぎ、その場にしゃがみ込んだ。
やはり雷は怖い。ランドラゴンが壁になってくれているが、何よりもその大きな音が怖かった。
「この世界最強と言われるランドラゴンにちっぽけな妖精が勝てると思うのかい?」
激しい雷にも動じず、ネフティは余裕の表情を浮かべている。
「目的さえ達成出来れば勝つ必要などない。だがこちらにも秘策はある」
鼻を鳴らしていうその言葉にまさかと思って彼女を凝視する。ジャニファが指を鳴らすと、やはり予想通り、どこからともなくかれんと志田が現れた。
相変わらず二人の顔には生気がなく、虚ろな目をしてどこを見ているのかもわからない。
「志田!」
「かれん!!」
「そちらは地王の名を冠するドラゴン。だがこちらには地王自体がいるのだ」
ジャニファの言葉に応じるように志田が地面に手のひらをつくと、地響きと共に隆起した土塊の中から地王が姿を現した。
「そして夜の眷属であるアイーグたちもいる。そちらこそ、たった四人でどうにかできると本当に思っているのか」
地面からぽこぽこと黒い塊が湧き出てきて、赤や黄色の瞳を光らせた。
「あっ!」
そしてキノコの家を囲んでいたアイーグも迫ってきて、美玲たちはあっという間にアイーグに囲まれてしまった。
「助かるには人の子よ、お前たちが私と共に来るしかないのだ」
嘲るように言うジャニファに、ネフティはため息をついた。
「君はそんな子じゃなかったじゃないか。わたしは悲しいよ」
「知ったことか。さあ、人の子よどうする」
ネフティのつぶやきを鼻で笑い、口の端を歪めてジャニファが美玲たちに手を伸ばす。
「行くわけないだろ!そっちこそ志田と久瀬を返せ!」
市原が叫び、リストバンドに飾られた精霊石から風主が飛び出して矢を番え、周りを囲むアイーグに向けて放つ。
空から緑の光をまとった矢が雨のように降り注ぎ、奇妙な叫び声をあげながら消滅していく。
「私も…!」
美玲も筆を掲げ、水皇を出現させた。
「アイーグを消さなきゃ…!」
筆をふるい、水球を飛ばす。それを水皇が受け取り、巨大な柱に作り変えていく。
アイーグの群れに柱を打ち込もうとした時、だがそれを阻むように炎が飛んできて、中途で魔力の錬成を切られた柱は霧となって消滅した。
まるでこちらを見ろ、とでも言うように再び飛んできたそれを鉾で防ぎ、美玲をかばうように前に出た。
美玲も同じ方に目を向けると、かれんの傍に炎帝が出現し、火の玉をお手玉のように弄んでいる。先ほど飛ばしてきたのはそのうちの一つだろう。
「アイーグは俺に任せて、ミレイたちはあっちに集中して」
フレイズに頷き、虚ろな目をしたかれんと、挑戦的な笑みを浮かべる炎帝に構えた。
「かれん…」
虚ろな目をしたかれんもまた、バトンを構える。その先端からは火の粉が散っている。
かれんがバトンを大きく振るうと、火の粉が火炎となって飛びかかってきた。
美玲はそれに水筆の先端を向け、水球を飛ばして相殺していく。
炎に水がぶつかり、辺りに蒸気が立ち込めた。
「かれん、お願い目を覚まして!」
訴える声も、虚ろな目をしたかれんには届いていないようだ。かれんはさらにバトンを回し、炎の輪を何個も作っていく。
「かれん……」
攻撃を受けるわけにはいかない。だがかれんを傷つけたくない。
美玲な迷っている間にも炎の輪はたくさん作られていく。やがてかれんの周りに八つの炎の輪ができてしまった。
美玲は筆を握る手に力を込めた。
一方水皇と炎帝は互いの武器を握りしめ、不穏な表情を浮かべてにらみ合っている。
まるで二体の間に流れる時だけが止まっているようだ。
たが次の瞬間、二体は同時に姿を消した。いや、消えたのではない。目にも見えない速さで切り結んでいた。
炎を纏った炎帝の剣と、水皇の鉾かぶつかり合い、火花が散る。
その火花に向けて炎帝が息を吹きかけると、その火花は何倍にも大きくなり、花火のように弾けた。





