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二人の武器

二人はネフティからその石を受け取り、まじまじと眺めた。


両手に持つくらい大きかった原石は、手のひらに納まるくらいの大きさになっている。


「二人とも目を閉じて石に集中して。石が君たちにふさわしい形に姿を変えるよ」


ネフティの言葉に素直に目を閉じる。


まるで地下水が湧き上がるような感覚がつま先から上がってくる。手のひらにサイダーのように弾ける感触が集まってきた。


精霊石が光を放っているのが目を閉じていてもわかる。閉じたまぶたの向こうから感じる光の強さに、美玲は目を閉じる力を強くした。


「もういいよ。目を開きたまえ」


光がだんだんと収まり、ネフティに促されて目を開いた。


手のひらにあったのは金の花が描かれた白い柄の先端に、しずくの形に変化した精霊石。

見た目はまるで図工の時に使う水筆である。


「筆みたい…」


振ってみると、先端から水球が発生し、まるでシャボン玉のようにそれは宙に浮いている。


「おもしろーい!」


美玲は水球を次々に発生させ、部屋の中には水球がたくさん浮いている。


「俺のは…靴紐とリストバンド?」


リストバンドの中央には精霊石が飾られている。市原は履いていた靴の紐を金の糸が混じる緑色の靴紐に付け替え、つま先で床を叩いてみる。


「どんな感じ?」


「別に…軽くなったような気もするけど、気のせいかもしれないし…」


拍子抜けしたようにその場で駆け足をしてみたところ。


「っうわ…っ?!」


突然黄緑色の光の粒子を大きく振りまきながら市原は天井まで跳ねたのだ。


市原はキノコの傘の部分まで跳び上がりそのまま落下してくるが、天井も床も柔らかいため、跳ね返っては跳び上がるのを繰り返した。


「た、助けてくれ!」


市原が飛び跳ねるたびに水球が割れる。しかし水は床を汚すことなく、吸い込まれていく。


「この家がキノコでできていて良かったよ」


フレイズに抱きとめられ、ようやく落ち着いた市原にネフティがのんきに言い、ゴーグルをはずしてテーブルの上に乗せ、ジャケットのポケットを探り始めた。


「それから、これを君たちに」


差し出してきたのは透明のしずく型の鉱物の中に四つの精霊石が収まったペンダントだ。


「見て分かる通り四大元素の精霊石が入っている。これは君たちの守りになる石だ。大切にしてくれよ」


そう言って二人の首にかけてくれた。


「ランドラゴンで襲ってしまったお詫びだよ」


「ありがとう…ございます」


胸元に淡い光を放つペンダントを下げ、申し訳なさそうにいうネフティにお礼を伝えると、彼は大きく頷いた。


「さて、食事にしようか。もうすぐ夜が来る。早めに休もう」




その言葉につられて窓の外を眺めると、すでに日は傾きはじめ、岩に群生する精霊石をオレンジ色に染めていた。


妖精の城の前でアイーグを率いたジャニファたちが来るのを防いだのも、今と同じくらいの日の傾き具合だった。


知らず知らずのうちに、美玲と市原の間に緊張が走っていた。


これからは常夜とこよるの眷属たちが活動する時間だ。妖精の城では結界を張っていたが、城からだいぶ離れたこの場所にまで結界は伸びてきてはいない。


「ここに結界は張れないからね。だから、これからここから出ないこと。ここも何もしなければただのキノコにしかみえないから」


ネフティの言葉に二人はホッとして息を吐いた。


陽は傾き、空が藍色に色をかえはじめていた。



闇夜の迫る中火の精霊石が灯す明かりの下で、鼻歌を歌いながらネフティが大なべを出してキノコのスープをつくろうとしたときだった。

外から大きな雷鳴が聞こえ、キノコの家はぶるぶると震えだした。


「何??」


みんなでご飯を作るのが調理実習みたいで楽しいと思っていた美玲は、並べようとしていたスプーンを轟音に驚いて取り落とした。


銀色のスプーンがキノコの床にはねる。


「三人はここにいて。俺が見てくるから」


フレイズはキノコが入ったカゴを市原に預け、剣を抜いて裏口から外の様子を伺った。


だがすぐに彼は慌てて扉を閉め、緊張した顔で首を振った。


「アイーグに囲まれている…!」


再び、大きな雷鳴が響き、キノコの家が揺れる。立っていられなくなり、床に手をついて揺れがおさまるのを待つしかなくなる。


「人の子よ、中にいるんだろう!早くでておいて!」


思わず美玲は市原と顔を見合わせた。

雷鳴に混じって外から聞こえてきたのは、忘れるわけがないジャニファの声だった。


「早くでてこないと、キノコごと燃やし尽くすよ!」


出て行くのは正直怖かった。あの激しい雷撃を受けたくはない。だがそれよりももっと、お世話になったネフティの家を燃やされてはたまらない。


「家くらい構わないよ。また探せばいいんだから」


飛び出そうとした二人の腕を掴み、ネフティが引き止めた。


「でも…!」


「仕方ないね…それじゃあ、行くよ!」


ジャニファの言葉の後にすぐ、空と大地を引き裂くような轟音が響いた。


「来い、ランドラゴン!」


それと同時にネフティが呼びかけると、キノコの床を引き裂き、先程とは違う、巨大なランドラゴンが姿を現した。


ランドラゴンは四人をかばうように抱きかかえ、その場にうずくまった。


眩しい閃光が辺りを包む。そして遅れて轟音が響いた。

美玲はあまりにも大きな音に、耳を塞いで目をきつく閉じた。


「おとなしく出てこないからよ」


ジャニファの冷たい声が土煙の向こうから聞こえてくる。足音が間近で止まるのがわかった。


「咆哮せよ!」


鋭く、囁くように言ったネフティの言葉にランドラゴンが雄叫びを上げ立ち上がった。


「な…っ!ランドラゴンか!!」


「いきなり人の家を燃やすなんて、乱暴だね」


黒い羽を羽ばたかせ、宙に逃げたジャニファにむかってネフティがズボンについた土を払いながら言った。


「ランドラゴンの使い手ネフティ…やはり貴様か」


「久しぶりだね、ジャニファ」


切りそろえられた銀の髪から覗く冷たい氷のような瞳を細め、苦々しげに言うジャニファにネフティは微笑んだ。


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