きのこのお家
「そんな、どうしてこんなことを…私は君を助けるために…!」
両手足を風の鎖に封じられ、宙に大の字になって浮く妖精は、呆然として風精霊からハンマーを受け取るフレイズを見つめる。
「手荒なことをしてすみません。ですが、この子たちは敵ではありません。人の子なのです」
フレイズがその整った顔を困った風に歪めて伝えると、妖精はその言葉に驚き、目を見開いて美玲と市原を見つめ呆然と呟いた。
「人の子だって?!まさか…だが、あぁそうか、だから羽がないんだね」
驚きそして敵意を失ったらしく、召喚主の意を受けランドラゴンは消えた。
「君たちにはこわい思いをさせちゃって、ごめんね」
ネフティの謝罪の言葉に、美玲と市原は首を振った。優しげな表情と言葉で話すが、さっきまでドラゴンで追いかけられていた恐怖はなかなか消えるものではない。
そしてようやく妖精をフレイズは風精霊の拘束から解放する。
「我々はトルト様の命により、あなたをさがしていました。」
「わたしを?それで、君は?」
「初めまして。ネフティ様。四元騎士団風部隊所属のフレイズと申します」
「風部隊…あぁ、ベルナールの部下か。それでわたしのことを知っていたんだな。彼は元気かい?」
「はい」
自由の身になって大きく伸びをしながらネフティが尋ねる言葉に、フレイズが微笑んで返答をした。
「あの、誤解、解けましたか?」
恐る恐る二人に近づき、美玲が尋ねると、ネフティは先ほどとは打って変わって優しげに微笑んだ。
「すまなかったね。すぐそこにわたしの家がある。そこでゆっくり精霊石を見せてくれないかい?」
そう言ってフレイズと連れ立って歩き出したネフティに、ランドラゴンに襲われた美玲と市原はまだ警戒心を解く気にはなれなかった。
それでも彼は探していた精霊石職人だし、フレイズが大丈夫だという仕草をするので、少し距離を置きながら二人の後についていった。
ーーー
赤い岩壁の間を抜けると、目の前に現れたのは茶色の傘を持った、エリンギのような大きなキノコである。
だがそれは大きいだけではなく、まるで家のように扉や窓が付いている。
「キノコのお家だ…!かわいい」
絵本で見たようなその家に、美玲は警戒心を忘れてはしゃいだ。
「散らかっているが、上がってくれ」
その言葉通り、キノコの家の中のあちこちに大工道具やハンマー、木箱に詰められた結晶が雑然と置かれていた。
床はふかふかしている。歩くのには少し不便だが、まるで雲の上を歩いているようで楽しい。
「二人とも、早速だが精霊石をよく見せておくれ」
作業机の椅子に腰掛けたネフティに言われ、鞄から取り出した精霊石を手渡した。
それらを受け取ったネフティはルーペを取り出し、精霊石を観察し始めた。
「さすが上級精霊の石だ。素晴らしい。早速研磨させてもらうよ。その間、ゆっくりしていてくれ」
そう言って、ネフティは地下へと降りていった。分厚い扉を閉め、部屋に残された美玲たちは所在なさげに部屋のあちこちを見回した。
美玲は近くにあったソファに腰を下ろした。それはふかふかのソファで、体が柔らかなクッションに沈む。まるで体全体がふわふわと包まれているようにも感じた。
「すごい、ふかふかー!」
あまりの気持ちよさにこのまま眠ってしまいそうだ。
市原は棚にある本を手に取り、パラパラとめくっている。
「それ何が書いてあるの?」
「知らね。字がわからないから読めない」
そう言うが、市原は本を片付けるわけでもなく、ページをパラパラとめくっている。
フレイズはといえば、所在なさげに壁に寄りかかり、剣を鞘から抜いて刃こぼれがないかを調べているようだった。
どれくらいの時間、が経ったただろうか。時計がないため時間もわからず、少しウトウトしながらネフティが入っていった扉に目を向けると、丁度開いたところだった。
「さあ、出来たよ」
ネフティの手には二つの宝石となった精霊石が輝いている。
美玲のものは透き通った水色の石になり、市原のものは明るい黄緑色の石である。内に秘めている精霊の力が輝き、眩しい。





