ランドラゴンから逃げろ!
「あれ、君たちには羽がないね…よく生きていられるね」
妖精は茶色の瞳を丸くして、不思議そうに言う。しかしその表情はすぐに訝しむものに変わる。
「もしかして、常夜の住人か?そんな、こんなところにまで現れるなんて…!子どもの姿をしてわたしを油断させる気だな?!そうはいかないぞ!」
「ち、ちょっと待ってください!」
ゴーグルをかけた妖精は、持っていたハンマーを構えた。
「君、危ないから離れていなさい!すぐ助けるからね」
フレイズの制止も聞かず、妖精は詠唱を始めた。
おそらく彼にはフレイズが美玲たちに捕まっているように見えたのだろう。
妖精の言葉に応じるように地響きが鳴り響き、激しく揺れる。積み上げられている石は崩れ、岩壁に亀裂が入る。
「さあ、現れ出でよ!地竜!」
妖精がハンマーで地面を打つと、大きなヒビが入り、そこから突き上げるようにドラゴンが現れた。
その衝撃で舞い上がった土煙のむこうから石の礫が
ふりそそいでくる。
「痛っ!やだ、砂が目にはいった!!」
「ゲホッ!ゲホゲホッ!」
美玲は目に入った砂を出そうと目をこすり、市原は土煙にむせている。
妖精の元に現れたドラゴンが地響きを立てながら向かってくるのを感じて、手探りで何とか二人は精霊石をバッグから取り出すと精霊たちに語りかけた。
「水皇お願い、護って!」
「風主吹き飛ばせ!」
二人の言葉に反応し、輝きだした精霊石から、上級精霊が現れた。
水しぶきとともに現れた水皇が鉾を振り、水の膜を作り出して砂礫から二人を守る。そして巻き上がる竜巻の中から姿を出した風主は大きく息を吹きかけて二人に襲いかかってきていた土煙を押し返した。
「まさか精霊石まで敵の手に渡っているとは…!」
強い風に押され、ランドラゴンは重い音をたてて岩壁に衝突した。
妖精は悔しそうに唸り、倒れているランドラゴンに目を向けた。
「ひるむな、ランドラゴン!ここはわたしたちに有利な地精霊谷だ!」
妖精の叱咤にランドラゴンが咆哮する。そして姿勢を低くして突進してきた。
「うわ…っ!」
巨体の割に素早くまっすぐに走ってきたので、二人は慌てて左右に散らばり、逃げる。
衝撃音がしたと思って振り返れば、ランドラゴンは上級精霊たちに押さえつけられ、暴れていた。
「吹き飛ばせ!ランドラゴン!!」
命令に忠実なランドラゴンは歯を食いしばり、自由になっている足を踏み鳴らした。すると地面がひび割れ、地下水が吹き上げた。
それにおどろいた二体の精霊は思わずランドラゴンの拘束を解いてしまった。
「この地属性が満ちた場所はわたしたちにとても有利なのだよ。さぁ、観念しなさい!」
自由を得たランドラゴンは再び二人に向かって駆けてくる。
「もう、なんなのよ、話を聞いてったら!」
「永倉、こっちだ!」
市原が美玲の手を引いて走る。どきり、とする間もなく、迫ってくるランドラゴンから逃げるために美玲は必死で足を動かした。
市原は均等に建つ岩の柱のそばを縫うようにして走っていく。ランドラゴンは小回りがきかない巨体のため、岩の柱を破壊しながら追ってくる。
背中から迫ってくる気配を感じ、ゾクゾクとする。振り返るとランドラゴンの巨体がすぐそこまで迫っていた。
ランドラゴンが壊した岩のかけらは結晶を壊し、属性の力をばらまく。
火炎が吹き出し、水が流れて大地がぬかるみになる。
美玲と市原は火を避け、ぬかるみに足を取られながらもなんとか逃げるが、目の前は行き止まり。大きな岩壁が行く手を阻んだ。
背中を岩壁につけてランドラゴンが迫るのを見ていることしかできない。
「さあ追い詰めたぞ!!ランドラゴン!飲み込んでしまえ!」
咆哮とともに開かれたランドラゴンの大きな口のなかに、綺麗に並んだ牙が見えた。
水皇と風主が二人を守るように立ちはだかる。精霊石が二人の危険を察知し、光り出した。
上級精霊たちはランドラゴンを消し去ることを望んでいるが。
「永倉…!」
「ダメだよ…誤解なんだから、攻撃なんてできない…」
市原の言葉に首を振る。動きさえ封じられたらあとは妖精を説得するだけでいいのに。
そう考えている間にも、ランドラゴンは大きな口を開けて迫ってくる。
「永倉!くそ…っ、風主水皇!」
間一髪、水皇と風主がランドラゴンの口を氷漬けにした。
口を氷で覆われ、ランドラゴンはその氷を壊そうと岩に打ち付ける。だが動くことは許さないと言わんばかりににたいの上級精霊はその太い足も氷で包み、完全にランドラゴンの動きを封じた。
「…、助かった…」
目の前で暴れるランドラゴンにホッとして息を吐いたのも束の間の事。
「そんな氷、すぐに壊せる!地霊跳揺!」
妖精がハンマーを振り上げ、地に叩きつけようとした。
「風霊鎖!」
フレイズの言葉に風精霊が鎖を作って妖精を拘束し、振り上げていたハンマーを奪った。





