【第3話 お説教の帰り】
学校の玄関をでると、太陽はさらに高く昇り暑さは激しさを増していた。
手をかざして空を見上げると、光が目に突き刺さるようだ。
「俺たちが頼んだせいで、悪かったな」
心から申し訳なさそうに志田が言った。市原も済まなそうにしている。
というのも、あの後担任の里山が現れ、今まで水の無駄遣いを注意されていたのだ。
逃げ遅れた美玲、かれんがつかまり、市原と志田が事情を説明するために残ってくれたのだ。
「いいよ、べつに」
それに職員室はクーラーが効いていて涼しかったし、というと志田はホッとしたように笑った。
「あーあ、すっげえのどかわいた。コンビニ寄ってアイスでも買おうぜ」
玄関の階段を下り、学校の前庭で振り向いた市原が大きく伸びをしていう。
買い食いがばれたらまた怒られるのに、と美玲は志田と顔を見合わせてため息をついた。
美玲は麦わら帽子をかぶりなおした。
麦わらの隙間から鋭い日光が目を刺し、相変わらず蝉はうるさい。
目の前のかれんは市原と並んで歩くことができたのかたまらなく嬉しいようで、スキップをするように歩いている。
「うわっ!」
強い風が突然正面から吹き上げ、美玲の麦わら帽子を空高く舞い上げた。
麦わら帽子は前庭に立っている【先生と子供たちの像】の前に落ちたと思ったら、そのまま風にふかれてコロコロと転がっていく。
どんなに追いかけても帽子は転がり、逃げてしまう。
やっとの事で帽子は地面に落ち着き、それを拾おうとしたところまた、二番目の突風が美玲を襲った。
「ぶわっ!」
それを正面からまともに食らった美玲は、息が一瞬詰まってむせてしまった。
目にも砂がはいり、それを取り出すために目をこする。
やっとの事で目を開けることができた美玲は、目の前に広がる景色に、自分は夢でも見ているのだろうかと思った。
夢じゃないのなら、暑さでどうにかしてしまったのだろうか。
なぜならそこは学校ではなく、一面が草に覆われたところだったからだ。
家も、学校も、サルビアが植えられている前庭にもない、ただ草だけがさわさわと揺れている、寂しい草原だ。
「かれん?志田?市原?」
ついさっきまで隣にいた志田も、前を歩いていたかれんと市原の姿もない。
だだっ広い草原にたった一人で美玲は立っていた。