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地精霊谷

赤く ゴツゴツした岩がたくさん並んでいるそこは、妖精の国の西にある、地精霊谷ノームバレーだ。


美玲たちは足場の悪い中をなんとか進んでいく。

歩くたびに肩にかけたカバンの中で精霊石が動く。


今回、ネフティの元に行く旅に一緒に来たのはフレイズだけだ。

妖精の国には女王がいるため、守りを固める必要があるからだ。


それに、少人数での移動の方が目立たないということもある。


戦闘能力については、二人が上級ハイクラス精霊スピリットを使役できることから、心配ないとされた。


「ほら、永倉」


「え?」


「手。摑まれよ。あぶないから」


「う、うん」


少しためらったのだが、市原に手を借りて大きな岩をよじ登る。


テーブルのように平たくなっているそこからは、妖精の国の平野などが一望できる。


そして遮るもののないその場所では、フレイズが風精霊シルフを呼んでトルトから受け取った地図とにらめっこをしていた。


「ネフティがいるのはここら辺だって地図にはあるけど…」


そうつぶやいて隣に浮かぶ風精霊シルフを見ると、風精霊シルフは不機嫌そうに腕を組んで首を振った。


「ここは自由に飛べないから、もう嫌だって言っているみたいだね。あとは自力で探すしかなさそうだよ」


確かにこの地精霊谷ノームバレーには岩があちこちにあって、風の行く先を阻んでいる。自由を好む風精霊シルフが嫌がるのもわかる。


「えー…つってもなんもないじゃん。岩はっかりだし」


市原はがっくりと肩を落としてあたりを見回した。


「ん…?」


風に乗って何かを打ち付ける音が聞こえてきた。金属のような甲高いものだ。


「あっちだ」


フレイズが音の方向をみつけ、平たい岩から降りて音たどっていくと、それはだんだんと大きくなっていく。


そしてあたりの岩場には色とりどりの宝石のような結晶がキノコのように生えているのがみえた。


「わぁ、きれい…!」


赤や青、緑など色とりどりの結晶がたくさんあって、それらはどれもまばゆい光を放っている。


「その赤いのは炎晶石えんしょうせきだよ。みてて」


二人に離れるように伝え、フレイズが結晶を剣の柄で叩いて切り取った。そしてそれを地面に放り投げた。


それは硬い地面にあたり、火の粉を上げながら粉々に砕ける。


「火が出たよ?!」


「うん、これは石の中に精霊の力が入っているんだ。これがあれば自分の属性じゃないものも使えるんだよ。美玲の近くにある青いのは水晶石すいしょうせきといって、水の力が詰まっているんだよ」


美玲は間近にあった青い結晶を覗いてみた。すると中には泡のような気泡がみえた。まるでサイダーのように細かい泡が動いている。


その隣にある赤い炎晶石の中には炎のような揺らぎがみえた。


「じゃあ緑のは風か?」


市原がフレイズの真似をして切り取ると、それを放り投げた。


「ナイト、だめだ!」


ふれいずの警告は間に合わず、地面に落ちて結晶が砕けた途端、渦巻き状の風が発生してそれはあっという間に大きくなった。


「何でこんなに大きな竜巻になってんだよ!」


風晶石ふうしょうせきは見た目よりたくさんの風を閉じ込めているんだよ!」


「それを早く言ってくれよ!」


市原が叫ぶ。轟音を響かせ荒れ狂う風は岩を崩し、瓦礫を巻き上げて進んでくる。


まるで台風のようだ。


「ど、どうしよう!!市原、風主ジンは何とかできないの?!」


「そ、そうか!」


市原もまた自分の肩にかけているカバンから精霊石を取り出そうとするが、焦っているせいで引っかかって出てこない。


「だめだ、間に合わない!二人ともこっちに!!」


フレイズの元に急いで駆け寄ると、彼はその背後に二人を庇うように立ち、鋭い声で早口に唱えた。


風防膜ウインド・ヴェール!」


薄緑色の膜がドーム状の壁となり、三人の上を覆った。


その間にも竜巻は岩を巻き上げながら近付いて来る。岩同士がぶつかり、礫となって舞い上がる。


この風の膜で守りきれるのだろうか。美玲は恐怖を感じ、フレイズのマントをきつく握った。


美玲と市原を守るように抱き抱えるフレイズの腕に力が込められる。


地防護壁アース・シェルター


その声の後に巨大な岩の壁が地響きとともに隆起して間近に迫っていた竜巻を阻んだ。


竜巻は岩の壁に当たり、散り散りになって消え去った。

竜巻が巻き上げていた岩や砂、礫が音を立てて落ちてもうもうと土埃を上げている。


「ダメじゃないか。風晶石を使うときは気をつけないと。常識だよ、常識」


瓦礫を踏み、土埃の向こうから現れた妖精が、ゴーグルを外しながら呆れたように言った。

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