休息のあとに
美玲が目覚めたのは、鼻をくすぐる美味しい香りがしたからだ。
上体を起こすと、ふわりとしたベッドが少し軋んだ音を立てる。
どれくらい眠っていたのだろうか。深く眠っていたのか、夢を見ていたのかさえ覚えていない。
ふと脇をみると、ベッドサイドの引き出しの上に精霊石がおいてあった。
それは夕日のオレンジをうけて結晶がキラキラと反射している。
手のひらの上に精霊石を乗せ、目を閉じる。
まさか自分が魔法を使えるなんて思いもしなかった。
シラギリの森でのことはまるで夢の中の出来事のようだったが、魔法を使った時の感覚は身体が覚えている。
あれは現実のことだと。
だが恐怖も覚えている。あの間近に迫ってくるイフリートの恐ろしさ。
それを思い出し、鳥肌が立った肌を撫でる。
「かれん…」
そしてそれを使役していたのは親友のかれんだった。志田も共にいたが、ふたりとも操られているようで、美玲と市原に気づいた様子もなかった。
せっかく見つけた二人を助けることができなかったのは悔しく、美玲は唇を噛んだ。
次は必ず助けなければ、と新たに決意をした時だった。
突然大きな爆発音が聞こえ、部屋の窓から外をみると、夕焼けの中に騎士たちがアイーグと戦っている姿が見えた。
そこには風主を召喚した市原の姿もみえ、美玲は驚いた。
「市原…」
彼の姿を見ると、ほっぺが熱くなるのを感じる。市原にはシラギリの森でたくさん助けられた。イフリートからもまもってくれた。
手も繋いだ。
だが今はそんなことに気を向けている場合ではない。
「あたしも…行かなきゃ…!」
このドキドキは戦いに向けた緊張だドキドキはそう言い聞かせながら、美玲は窓を開けて精霊石をかざした。
「水皇!」
呼びかけると、精霊石が青く輝き、水流の轟音と共に水皇が現れた。
「お願い、力を貸して!あそこでみんなが戦っているの!」
水皇は頷き、美玲を抱きかかえると窓の外に飛び出した。





