炎帝(イフリート)の暴走
「風舞!」
風が巻き起こり、竜巻の障壁が美玲の目の前に現れる。炎帝は竜巻に弾かれ、大きく後退した。
「俺と風主がいることを忘れられちゃ困るな」
市原と風主が美玲の前に出ると、ビシッと炎帝に指を突きつけた。
炎帝は剣を投げ捨て、不敵な笑みを浮かべる。
ゆらり、と彼女の周りの景色が歪む。
茂みから白い煙が上がったと思ったら、火がついて燃え始めた。
そして、まるで彼女の怒りを表すように周囲はあっという間に火の海となった。
「二人とも、陛下は転送した!撤退するよ!」
セレイルの言葉に美玲は懇願するように首を振る。
かれんと志田も放ってはおけない。それに、せっかく見つけたのだ。
二人は地王の出した水晶によって火の海から守られている。
炎帝は火球をたくさん作り出し、髪を振り乱しながらあちこちめちゃくちゃに放っている。
もう制御不能、暴走状態だ。
「げほっ!!」
熱く煙たい空気に何度咳き込んでも苦しさは取れない。
しかも熱気が辺りに立ち込めているためか、水の気配は何も感じられない。
美玲と市原は避難訓練で習ったように、布を鼻と口に当てて姿勢を低くした。立っていたときよりもすこしは呼吸がましになった気がする。
だが火の勢いはどんどん増していく。
ちらり、と水皇の視線を受け、それをたどると彼女は地を示していた。
「そうか、地下水…」
「え?」
「地下水だよ!地面の下に、水が通っている道があるんだ!」
市原の言葉に水皇が頷いた。
脳裏に言葉が浮かんでくる。
「水激流!」
煙で息苦しく、かすれた声で囁くようにしか唱えられなかったが、それでも魔法は作用したらしい。
地響きがしたかと思うと、地面にヒビが入り始めた。
やがて轟音とともに、地表を破り、水が勢い良く吹き出してくる。
それはまるで、滝が逆さになったような激しく勢いのある水流で、上に向かって噴出した水は激しい雨のように地に降り注ぎ、火をあっという間に消し去ったのだ。
その水は炎帝にも当たり、彼女は水が触れた部分から白い蒸気を上げながら苦痛の悲鳴を上げた。





