炎帝の標的
炎帝の視線を受け、美玲は身体を震わせた。
怖い。
炎帝は 水皇には属性の相性の時点ではかなわない。ならば、と召喚主である美玲を攻撃の対象にしたのだ。
水皇はそれに気付き、その視線を遮るように美玲の前に立つ。
炎帝は両腕を大きく掲げて、空中にいくつもの火球を発生させた。
「あんなに、たくさん…!」
それを見た地王もまた前に出ようとしたが、炎帝はそれを制した。
まるで手を出すな、というように。
地王は彼女の気迫に押されたのか、かれんと志田を守るように二人の前に出るだけにとどまった。
火球が不規則に飛び交う中、三日月のような刃の剣を抜いて炎帝が飛びかかってきた。
まっすぐ彼女が向かう先は、水皇ではない。美玲だ。
「えっ?!」
あっという間に間合いを詰めた炎帝の剣を、間一髪水皇の三叉鉾が阻んだ。
しかしその両脇からはいくつもの火球が迫ってくる。
水皇は炎帝とつばぜり合いをしているため、美玲を守ることはできない。
思わず意識を美玲に向け、隙をみせた水皇を押し返し、脇をすり抜け美玲に迫った。
炎帝は唇を歪め、ニヤリと笑う。
召喚士さえいなくなれば、水皇も消えるからだ。
もう邪魔者はいなくなる。
先ほど水皇が作り出した水の膜など、魔法ではない剣の前では役に立たない。
逃げなければ、そう思ったけれど、足がすくんで動かない。
自分に向けられている確かな殺気に、美玲の足はまるで地面に縫いとめられたかのようだ。
「ミレイちゃん!」
火球を水精霊を使って
消していたセレイルの悲鳴が響く。
何故だかゆっくり、ゆっくりとイフリートが迫ってくるのが見えた。





