風主ジン
「よべた…!」
先ほどとは違い、よりはっきりと姿が見える。
《さあ…》
頭の中に優しげな声が響く。
「森の火を消して!アイーグを消して!みんなを守って!!」
美玲の言葉にこくりと頷くと、セイレーンは両手のひらを空に向ける。
大きな渦を巻いた水流が現れ、あっという間に燃える炎を消し、溶岩を冷やしていく。
「かれん…」
美玲は虚ろな目をしているかれんを見つめた。
市原は焦っていた。
美玲が精霊を召喚できて、なぜ自分ができないのだと憤ってさえいた。
「くそ、なんでだよ…っ」
両手のひらを見つめる。
《違うよ》
ふわりと風が吹き、クスクスという笑い声が響く。
《違うよ…違うよ…》
「誰だ!何が違うんだよ!!」
近くにいるフレイズの声ではない。美玲でもない。子どもの声だが、甲高く、幼い声だ。学校の裏手にある幼稚園からいつも聞こえる幼児の声に近い。
「なんなんだよ…!」
《名前…ちがうよ…主の名前は、ジン》
「ジ…ン…?」
《呼んで…呼んで…》
クスクス笑いながらその名を呼ぶことを促される。
《来るよ…来るよ…こわいよ…》
怯えたような声にハッとして前を向くと、今度は志田が地面を拳で叩いた。
地面がひび割れ、切り立った岩が伸びる。
そして形作られたのは、岩の竜だ。
ティラノサウルスのような大きなその竜は奇声をあげ、尻尾を振って落ちている岩石の塊を飛ばしてくる。
《危ないよ…危ないよ…はやく、風主を呼んで》
フレイズをはじめ、風部隊が岩竜の岩を相殺していく。だが彼らの攻撃は岩竜までは届かない。
《さあ早く…》
「来てくれーーージン!!」
叫ぶと大きな竜巻が巻き起こり、、その中から現れたのは、背中に羽が生えた天使のような姿をした少年だった。





