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夏休みに妖精の世界を救うことになりました!  作者: 小日向星海
夏休みに妖精の国を救いました!
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夏休みに妖精の国を救いました!⑧

 やみくもに探しても見つからないので、美玲はフレイズの知り合いを片っ端からあたることにした。


「ベルナールさん、セレイルさん、フレイズ見ませんでしたか?」


 壇上から大体の位置を覚えていた美玲は、会場の一角でグラスを手に談笑していた二人の元へと息を切らして駆け寄った。


「フレイズ?フレイズならさっき精霊たちのところにいたぞ」


「ええ?!」


 精霊たちが集まっていたところはさっき通り抜けてきたばかり。


 行き違ったのかと美玲はすぐに戻ろうとしたが、それをセレイルが止めた。


「ミレイちゃん、あちこち動いて行き違いになると悪いよ。ここで一緒に待っていたらどうだい?」


「でもあたし、早くフレイズに渡したいものがあるんです」


 美玲が言うと、ベルナールとセレイルは顔を見合わせた。


「それじゃあミレイちゃん、ミレイちゃんはあの大きな木の下で待ってな。このおじさんが、フレイズにそこに行くように伝えておくからさ」


 そうすれば大丈夫だと、セレイルは美玲の後ろを指差していった。


 振り向くと、少し盛り上がったような、なだらかな丘に立つ大きな木の下に、ベンチが一脚あるのが見えた。


「ほら、食べ物もきちんと持っていきな!どれもこれもおいしいよ〜」


 セレイルはトレーに料理を乗せていき、呆気に取られている美玲に持たせた。


「おいセレー、俺がおじさんってどう言うことだ?そしたらお前はおばさんになるぞ」 


 不服そうに言うベルナールを、セレイルは鼻で笑った。


「何言ってるんだい、アタシは永遠のお姉さんだからいいんだよ」


「何だと、俺だって永遠のお兄さんだわ!」


「わかった、わかったから、ほら、アンタは早くフレイズを呼んできな」


 セレイルに急かされて、ベルナールは「はいはい」と言いながら羽を動かして飛び上がる。


「それじゃあお嬢ちゃん、“お兄さん”にまかせな。すぐ伝えてくるからな」


「あ、ありがとうございます!」


 若さを強調するベルナールと、それに呆れるセレイルに礼を言って、美玲はトレーを手に言われた通りの場所へと向かう。


 枝を大きく広げた木陰にあるその場所は、程よい木漏れ日が気持ちいい場所だ。


 パーティー会場から少し離れた場所にあるこの場所にも音楽がかすかに聞こえてくる。


 少し高いところにあるここからは会場全体が見えて、精霊、妖精がそれぞれ楽しんでいる様子が見える。


 だがそのあまりの数の多さに、ベルナールの姿もフレイズの姿も見つけられず、行き違ってしまうのも仕方がないと美玲の口からため息が出る。


 美玲は視線を戻し、ベンチに腰掛けるとトレーを置いた。


 バラのケーキ、にんじんジャムのスコーン、大豆団子の串焼き、花蜜炭酸水。


 セレイルはどれも二人分ずつ載せてくれた。


 フレイズと一緒に食べられるように、と。


「早くこないかな……」


 そよそよと風が吹いて、ふわりと香るのは、髪飾りにした花の香り。


 心地よいその風は足元の草花を優しく撫でて通り過ぎていく。


 初めて妖精の国に来た時は、これよりも激しい風が吹いていた。


 そこで初めて出会ったのが。


「フレイズ……」


 その名前を呟くだけで胸がドキドキする。


 改めて自分が恋をしているのだと自覚し、頰が熱くなる。


 美玲はしまっていたミサンガを取り出し、きゅっと握った。


 袋に入れてラッピングをしたそれを握る手は緊張のせいか少し震えていて。


 美玲は目を閉じてどうやってフレイズに渡すかを頭の中で何度もシュミレートした。


「ミレイ!」


「っ!」


 自分の名前を呼ぶその声に、弾かれたように美玲が顔を上げると、フレイズがすごい勢いで飛んでくるのが見えた。


 とくんと、大きく心臓が跳ねる。


「フレイズ……!」


 美玲はベンチから立ち上がり、後ろ手にしてミサンガを隠した。


 そこへフレイズが息を切らして降りてくる。


 気づかれていないかな、と少し後ろを振り返って、すぐにフレイズを見上げる。


 陽の光を受けた金の髪はサラサラと風に靡き、透き通る緑の瞳は宝石のよう。


 優しい表情をした美貌のその妖精は、よほど急いでいたのか、乱れた髪をそのままに頭を下げた。


「待たせてごめんね、ベルナール隊長に聞いたよ。会場で君を探していたんだけど、行き違っていたみたいで……」


 そしてフレイズは両手を合わせて拝むようにして美玲に謝った。


 フレイズも美玲を探していたと言うことがわかり、美玲は嬉しくなって大丈夫だと首を振った。


「フレイズ、えっと、あの……そ、そういえばいつもと違う格好なんだね」


 セレイルとベルナールはいつも通りの甲冑姿だったが、フレイズは違った。


 金糸と銀糸の刺繍で飾られた、風部隊の色である濃緑のジャケットに、生成色のスラックス。

 そして黒の編み上げブーツを履いている。


「ああ、これ?騎士団の団服なんだ。こう言う時に着るものなんだって入団した時に隊長から渡されてさ。まあ、俺たちも参加するパーティーなんて滅多にないんだけどね」


 今まではアイーグの討伐などで、護衛で配置されることはあっても、騎士団も参加するパーティーは開かれなかったのだとフレイズは言う。


 各部隊の隊長は、甲冑を含めて正装になるとのことで、セレイルたちはいつも通りなのだと言う。


「実は着たのも初めてなんだけど、変かな」


「ううん、すごく……」


 そこから先は胸がいっぱいになって美玲は言葉が出なかった。


 かっこいいなんて言葉だけでは表せないほど、とても素敵で、美玲はうっとりとしてため息をついた。


 その様子に美玲が言いたいことを察したのか、フレイズは照れくさそうに頭を掻いた。


 そして視線を合わせるように跪き、ミサンガを隠し持っていない方の美玲の手を取り、微笑む。


「その花のドレス、とても似合うよ。まるでミレイが俺とおなじ妖精になったみたいで嬉しいな」


「……ありがと、ポワンがデザインしてくれたんだよ。お化粧もこんなふうにしたのは初めてなんだ……」


 美玲は言いかけて、じっと笑顔で見つめるフレイズに気づいてなんだか恥ずかしくなり、口を閉じた。


「とても似合ってる……このままミレイが本当に妖精になって、ずっとここにいられたらいいのに……」


「えっ……」


「なんてね、ちょっと考えちゃった。ごめん、変なこと言って」


「ううん……」


 寂しげに言うフレイズに、別れの時が近いのを感じて美玲は表情を曇らせた。


「ごめん、ミレイ……俺、君にそんな顔をさせたいわけじゃなかったのに……」


 でもフレイズが言った、その永遠を望む言葉が嬉しかった美玲は首を振る。


 本当に妖精になって、フレイズたちとずっと一緒にいられたら、とは思うけれど、美玲はまだ小学生の子どもで、元の世界には帰りを待つ家族がいる。


 召喚の目的である妖精の国を救うことを達成した今、異世界である妖精の国にそんなに長くはいられない。


「とりあえず座ろうか」


 気を取りなおすようにフレイズに促され、立ちっぱなしだったことに気付いた。


 二人でベンチに腰掛け、トレーの料理を分ける。


「セレイルさんが食べなさいって持たせてくれたんだよ」


 はい、と美玲はフレイズに花蜜サイダーを手渡す。


「ありがとう」


 急いで飛んできたから喉が渇いていたのだと、フレイズは嬉しそうに口をつける。


 美玲も同じように花蜜サイダーを吸う。


 シュワシュワとした微炭酸の少しの刺激と、サルビアの蜜の味が口の中に広がる。


 二つが混ざり合い喉を通って、美玲は沈んだ心がクリアになるような気持ちになった。


 そうしてしばらく無言で、ベンチに座った二人は花蜜サイダーを飲む。


 他のメニューも食べたけれど、美玲は緊張で味なんかよくわからなくて、食べ物を飲み込むたびに心臓が逆流してきそうだった。


(いまだ、渡すんだ美玲!)


 その間、美玲は自分を奮い立たせていた。


 緊張から胸の鼓動はドキドキからバクバクになっていて、美玲はだんだんと息が苦しくなってしまい、深呼吸をして気持ちをなんとか落ち着かせる。


「ミレイ、大丈夫?」


 心配をしてくれるフレイズに大丈夫だといい、もう一度美玲は深呼吸をした。


(もうなるようになれ!)


「あの、あのね、フレイズ、これ……プレゼント!」


 妖精の国に戻ってすぐ、フレイズに渡そうと思っていたけど、渡せなかったミサンガ。


 今度こそ受け取って欲しいと思いながら、美玲はフレイズに勢いよく差し出した。


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