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夏休みに妖精の世界を救うことになりました!  作者: 小日向星海
夏休みに妖精の国を救いました!
210/215

夏休みに妖精の国をすくいました!⑦

 中庭といっても、美玲たちの知っている中庭とは規模が違う。


 妖精の城の中庭は学校のグラウンドの何倍も広かった。


 あたりを埋め尽くす色とりどりの花や葉には、ところどころに精霊石のオーナメントが飾られ、それらは陽の光を受けてキラキラと光ってとてもキレイだ。


 中庭の端にある、一際大きなバラのアーチの前には楽団がいてパーティのための音楽を奏でている。


 妖精の国の曲なのだろう、その今まで聞いたことのない独特のリズムとメロディに、美玲たちの体は自然と揺れる。


「お、アレなんだ?」


 市原が指差した中央には、絢爛豪華なレースのクロスを引き、花で飾られたテーブルが並べられ、その上にはたくさんの料理がのせられている。


 どれもこれも美味しそうだ。


「なあ、あれ、バイキングみたいな感じなのかな?」


 市原が目を輝かせていう。


 それぞれの料理のそばには皿や小皿が置かれ、料理が入ったトレーや皿にはトングが乗せられている。


 ドリンクコーナーには、スライスされた果物が入ったジュースやお茶のピッチャーとグラスが置かれ、やはりセルフで注ぐスタイルのようだ。


「これがガーデンパーティー……!」


「すごいな……」


 かれんのつぶやきに志田も感心したようにうなずく。


 一方美玲は会場を見回し、フレイズの姿を探していた。


 会場にはすでにたくさんの妖精と精霊がいる。


 でもフレイズのことはすぐにでも見つけられそうなの自信があった美玲だが、同じような髪色、髪型をした妖精が多くて見つけられない。


「フレイズさんいた?」


 かれんに聞かれて美玲は首を振った。


「あらミレイちゃんたち、ここにいたのね。あなたたちはこっちへ来て」


 ミアラに呼ばれて通されたのは、会場に設営されたステージの裏だった。


「このステージ、俺たちも作るの手伝ったんだぜ」


「結構楽しかったよな」


 市原と志田は得意げに言う。


 硬い木の板を何枚も組み合わせて組んである、簡易版とはいえ立派な作りだ。


「みなさま」


 そこへユンリルとポワンがやってきた。


 ユンリルは金木犀の色をしたオレンジの外套を羽織っている。


 白いドレスと白い肌、純白の羽根と金の髪は陽の光を受けて輝くようだ。


 一方で、ポワンはピンクのナデシコの花びらの形をしたドレスを着て、濃紅のマントを羽織っている。そしてその頭には小さなティアラが飾られていて、とてもかわいらしい。


「このたびはお力添え、まことにありがとうございました。あらためて感謝いたします」


 ユンリルとポワンは四人()の近くまで来ると深々と頭を下げた。


「こちらこそ、こんなにすごいパーティーを開いてもらって……」


 志田が四人を代表して言う。


「俺たちにこんなに素敵なものを作っていただいて……こちらこそありがとうございます」


 ポワンは顔を上げて、ちょうど市原と目があったようで、小さな悲鳴をあげて手を組み、目をキラキラさせた。


「ナイト様、とても素敵です……っ!」


「そうか?こんなひらひらがついた服初めてだけど……ありがとな。ポワンもそのドレスよく似合っているよ」


「まあ……!」


 市原に褒められ、ポワンは恥ずかしそうに、でも嬉しそうに頬を染めた。


「喜んでいただけて、ポワンは嬉しいです!デザインを頑張った甲斐がありましたわ!」


「えっ、これポワンがデザインしたのか?!」


「はい!皆さまの属性カラーを中心に、髪型、髪飾り全てポワンがデザインいたしました!皆さまとてもよくお似合いで、ポワンは満足です!」


 驚く四人にポワンは「えへん」と胸を張って言う。


「すげえな……」


「ありがとう、ポワン!こんなに素敵なドレス、私はじめてだよ!」


「うんうん、あたし達のこの髪飾りのお花の色も考えてくれたなんて、ポワンは本当にすごいね!」


「いえいえ、ポワンはポワンの仕事をしたまでです」


 志田、かれん、美玲の言葉に照れるポワンは、両手を振って謙遜しながらも嬉しさが隠せないのか、はにかんでいる。


「いや、でもほんとすごいわ……尊敬する」


 市原の言葉にポワンは満面の笑みを浮かべた。


「このパーティーの装飾などはポワンが中心になってまとめました。時期女王として、三界全ての存在が楽しめるよう、ポワンは精一杯考えました。ですから、今日はみなさまに楽しんでくださるととっても嬉しいです!」


 ポワンの言葉に四人は感動しすぎて言葉がでなくて、ただこくこくと頷いた。


「さあ、みなさま、時が来ました。共に壇上へ。乾杯をいたしましょう」


 ユンリルに促され、美玲たちは二人に続いて壇上に上がった。


 壇上には精霊王とバライダルもいて、ユンリルたちに飲み物が入ったグラスを手渡す。


 それまで賑わっていた会場はユンリルの言葉を待つように水を打ったように静かになった。


 ユンリルは一歩進み出て、口を開いた。


「妖精の国、精霊界、人間界の三界は、先代の水天アクアによってかつてない危機に襲われました。ですが、こちらにいるナイト様、ミレイ様、カレン様、サトル様のご協力により、その危機を脱しました」


 ユンリルは美玲たちを振り返って言う。


「そしてあらたな四天が生まれ、妖精の国と精霊界は境が消え、昔のように共に過ごせるようになりました。人の世界とはまだですけれど、いずれは、いにしえのように三界が再び交わることを、私は願っています」


 再び正面を向き、ユンリルは微笑んだ。


「四人の方の功績への感謝の気持ちと、そしてこれからの三界の平和を祈り、本日このパーティーを開催いたします。四人の英雄とあらたな三界の道に、乾杯!」


 ユンリルか高らかに言い、グラスを掲げた。


「英雄たちに乾杯!」


 会場の妖精と精霊たちから歓声が上がった。


「乾杯!」


 美玲たちも周りを真似てグラスを掲げ、それからお互いにグラスを当ててから飲んだ。


 甘い花の蜜と木苺の酸味が絶妙なジュースだった。


 英雄だなんて呼ばれるのはくすぐったいけ連売ど、四人はとても誇らしい気持ちになったのだった。



 乾杯を終えた美玲たちは降壇して、早速料理のコーナーに向かった。


「ほら、英雄さまよ」


「あら、かわいらしいわね」


「人の子を実際に見たのはいつぶりかなぁ」


 などと、妖精たちと精霊たちは美玲たちを遠巻きに眺めながらささやきあっているのが聞こえ、四人はどんな顔をしたらいいかわからず、俯いて足早に進んだ。


「美玲美玲、あのケーキも美味しそうだよ!」


「え……ちょっと、かれん……お皿に乗せすぎだよ……お腹壊すよ?」


「大丈夫、スイーツは別腹だもん!」


 いくらでも入ると言って、かれんはケーキを、手に持った皿にどんどん積んでいく。


「た、食べられる量だけにしときなよ……」


「大丈夫だって!あ、このバラのケーキかわいい!」  


「なあなあ志田、このスコーンについてるジャム、なんのジャムかわかるか?」


「え、なんだ?」


 ジャムといえばイチゴくらいしか知らない志田は市原の質問に首を傾げた。


 市原が持ってきたジャムの色はイチゴとは程遠い色で、鮮やかなオレンジ色をしている。


「ヒント!なんと野菜!ポワンに聞いて俺もびっくりしたんだけどな!」


「野菜?」


 ヒントを受けて志田はジッとジャムを見つめた。


「この色……もしかして、にんじん?」


「せいかーい!」


「え、まじで?」


 志田は首を傾げながらもジャムを一口舐めてみる。


「へー、全然にんじんの味しないな。これなら久瀬も食べられるんじゃね?久瀬」


「んー、なあに?志田くん」


「これ、にんじんのジャムだって。かなりうまいぞ」


「えー、スイーツは好きだけど、にんじんは、ちょっと……」


 かれんは、志田には見えないよう、「無理無理」と美玲に嫌そうな顔を向けた。


 かれんはニンジンがきらいなのだ。


 大が無限大につくくらい苦手で、給食でも残しているのを美玲は何度かみたことがある。


 かれんの母親はそんなかれんになんとかニンジンを食べさせようと、にんじんのマフィンやケーキを作るのだが、逆にそれが原因でもっと食べなくなってしまっている。


 そのことを知っている美玲は苦笑した。


「にんじんジャムだって……絶対マズイじゃん

 」


 ヒソヒソと、かれんが美玲に耳打ちをする。


「あれ、そういえば美玲は何も食べないの?」


「うん、なんか、あまりお腹空いてなくて」


 慣れない場に緊張しているのかな、と美玲は頭をかいて言う。   


 いや、そうではない。


 美玲はフレイズを探しに行きたいのだ。


 壇上からは見つけることができなくて、どこにいるのかもまったく分からないけれど。


「……かれん、あたし、フレイズ探してくるね!」


 いてもたってもいられなくて、せっかくのご馳走だけれど、美玲はドリンクを一口飲んで言った。


「行ってらっしゃい。早くその可愛い姿、フレイズさんに見せたいもんね」


「そ、そんなんじゃないって!」


 からかうように言うかれんに、美玲は顔を真っ赤にする。


「永倉」


「な、何?」


 美玲に声をかけた市原に、志田がその先を促すように市原の肩を叩く。


「……がんばれよ」


 少し俯いてから顔を上げていった励ましの言葉は少し震えていて。


 表情も笑顔だけれど市原が泣いているようにも見えた。


「……うん、ありがと市原」


 でも、それが市原の精一杯の励ましだと知っている美玲は、ドレスの裾を摘み駆け出したのだった。

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