届かない声
もぞり、とかれんたちのいる木の茂みから黒いものが突然姿を現した。
アイーグだ。それらは赤い目をかがやかせている。
更にもぞりもぞりと気持ちの悪い動きをしながら、黄色い目のアイーグもでてきた。
かれんと志田は途端にアイーグの群れに囲まれてしまっている。
「かれん、逃げて!」
美玲が呼びかけても、かれんは眉一つ動かさない。何も反応しない。
「かれん…!」
しかも驚いたのは、憧れの市原を目の前にして平然としていることだ。いつもであれば、声のキーを一オクターブ上げて「市原くぅん」とかいうのに。
「セレイルさん、ベルナールさん!!かれんと志田を助けて!アイーグか!!」
敵対している状況だが、アイーグに襲われるのを放っておくわけにはいかないと、セレイルとベルナールは美玲の願いに頷いた。
「まかせな!水精霊乱舞!」
先程まで水差しを持つて給餌をしていた水精霊が今度は武装してあらわれ、両手を広げて回転する。水滴が鋭い水のやりとなり、赤い目のアイーグたちを切り裂いていく。
「風精霊舞踊!」
ベルナールの言葉に応じて現れた風精霊がくるくるトン、とステップを踏むたびに風の刃が発生し、黄色い目のアイーグを消し去る。
しかしどんなに消し去ってもアイーグの数は減らない。次から次へと現れてくる。
「キリがないね」
セレイルもベルナールも、他の騎士たちもあまりの数に少し疲れが見えてきている。
「志田逃げろ!!」
志田もかれんと同じように無表情で、二人の虚ろなその瞳には美玲と市原は写っていないようだった。
「かれん!」
なんど二人の名前を叫んでも、無反応な友人に向かってたまらず、駆け出そうとした。
「ミレイ、あぶないよ!」
「離して!かれんたちがアイーグに…!」
がっちりとフレイズに両脇を固められて身動きが取れず、ミレイはジタバタと暴れた。
「落ち着きな、ミレイちゃん。あの子らはアイーグに襲われてなんかいやしないよ」
肩で息を吐くセレイルの言う通り、かれんたちの周りのアイーグたちは彼女たちを襲う素振りさえ見せない。
「よくねぇな、これは」
セレイルとベルナールは互いに目だけで合図をした。
「我々は炎の少女に。ベルナールの部隊は土の少年に、アイーグを消しつつ分散して対処せよ」
「了解!行くぜ、野郎ども」
「残りの部隊は陛下の檻を守りつつ、お連れする準備を継続せよ!」
「どうしよう、市原…かれんと志田が…」
もし、 アイーグを何体も消し去ったベルナールとセレイルの合体魔法を受けたらどうしよう。かれんたちはただでは済まないだろう。
妖精の騎士たちが自分たちに向かってくるのを見て、かれんを抱き抱えて志田は木の上から地に飛び降りた。
そしてそれぞれに無表情のまま武器を構えた。





