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夏休みに妖精の世界を救うことになりました!  作者: 小日向星海
夏休みに妖精の国を救いました!
209/215

夏休みに妖精の国を救いました!⑥

 ついにパーティーの日がやってきた。


 天候にも恵まれ、今日は絶好のガーデンパーティー日和だ。


 ミアラによると、庭で開くパーティーのことをそう呼ぶそうで、美玲たちは「庭でするパーティーはガーデンパーティー」と何度か呟き覚えたのだ。


「うわあ……ほんと、素敵すぎる〜!」


 ドレスに着替終わったかれんが、鏡を見ながらクルクル回ってうっとりと言う。


 ドレスはそれぞれの扱う属性に合わせて作られたようで、かれんのドレスは膝丈までのふんわりとした赤い華やかなドレスでオレンジのフリルで飾られている。


 靴はゴールドのほんの少しヒールがついたパンプス。光に当たるとキラキラと光るのがキレイで、かれんは頬を緩めながら何度も靴の角度を変えて楽しんでいる。


 美玲が着ているのはかれんと色違いの、光沢のある淡い水色のドレスだ。縁を飾るフリルは紫色。


 靴はかれんとおなじくらいの少しヒールのある、白いリボンが飾られた銀色のパンプスだ。


「お花を髪に飾るなんて、びっくりだよね」


「成人式のニュースで見たくらいだよね」


 冬の時期になると、晴れ着を着て華やかな生花を髪に飾ったお姉さんたちをテレビで見て憧れたものだ。


 まさかそれが今叶うなんて思いもしなかった。


 髪の毛も普段やらないような髪型に整えられ、長い髪のかれんは髪を大きな編み込みでまとめられ、そこにオレンジの大輪ダリア、赤いバラ、黄色いガーベラが飾られている。


 髪の短い美玲も、少しだけ両サイドに編み込みをし、耳元近くにユリ、矢車菊とデルフィニュームと青系の花が飾られている。


 妖精たちはドレスの色に合わせて花を選んでくれたのだろう。


 鏡の前にいる自分は別人のように見えて、二人はまじまじと鏡を眺め顔を見合わせた。


「はぁ、本当、お姫さまみたいだね……」


 かれんがうっとりと呟く。


 美玲は、鏡に映っているのが自分だなんて信じられず、変顔をしてみた。


 鏡の中の女の子も変顔をしたので、鏡に映っているのはやはり美玲なのだろう。


「ちょっと美玲何してんの!やめなよ」


 ずっと変顔をしていたら慌ててかれんに止められ、変顔で固定されていたほおをさすってマッサージしてくれた。


「さあさ、お化粧もいたしましょう」


 着付けをしてくれた妖精に変わり、今度はメイク担当の妖精たちがいそいそとやってくる。


「お、お化粧もするの……?」


 ドキドキしながらかれんがきくと、妖精ははじけるような笑顔で頷いた。


「もちろんですわ!今日はあなた様たちが主役なのですもの、うんと華やかに、うんときらびやかにいたしましよう!」


「は、はい……っ!」


 お願いします、と二人して頭を下げる。


 お化粧なんて七五三でしかしたことがない。


 二人はワクワクして鏡の前に座る。


「まず、へちま水で肌をととのえましょうね」


 コットンに染み込ませたへちま水で肌を濡らされる。


「下地は貝の粉を砕いたものをへちま水で溶いたものですわ」


 ペタペタと塗られ、その後薄く伸ばされる。


「おしろい花の粉に、真珠を砕いた物を混ぜたパウダーです」


「わっ!」


 続けてポンポンとパフでおしろいをつけられ、美玲は慌てて目を閉じた。


「っくしょ!」


 舞い上がった粉にくしゃみが出てしまい、お化粧って大変なんだなあ、と美玲は鼻をすすった。


「今度は薔薇の花びらと赤珊瑚を細かく砕いたチークですわ」


「ふふ、くすぐったい〜!」


 ブラシでクルクルと頬を撫でられ、二人の口からは思わず笑い声が漏れてしまう。


「おしろい花の花の汁に、氷砂糖を混ぜて練ったものです。爪に塗りましょう」


 顔のメイクをしている間に、もう一人の妖精が二人の爪を飾ってくれる。


「ネイルには精霊石のラインストーンも飾りましょうね」


 ワクワクする。美玲とかれんはネイルアートなんて初めてで目をキラキラさせた。


 学校に持って行っている蛍光ペンやラメ入りのペンとかで爪を塗ってみたことはあるけれど、本格的にやったことは一度もない。


 鏡の前の美玲とかれんは、街やテレビでみたお姉さんたちみたいに、どんどん綺麗にに飾られていく。


「こちらは薔薇と蜂蜜を混ぜたグロスです」


「ん、甘ーい!」


「あら、舐めちゃダメですよ〜!もう一度塗りますね」


 今度は口を真一文字にして舐めるのを我慢する。


 閉じなくてもいいのだろうが、目が自然と閉じてしまう。


 グロスを塗り終わり、妖精の言う通りにして一枚布を唇だけで噛む。


 余分な分が布に写り、唇が鮮やかなピンクに彩られ華やかさがさらに上がる。


 それから眉を整えアイラインを引き、かれんはピンクの、美玲は水色のアイシャドウをのせ、ビューラーでまつげを上げる。


 マスカラをつけて、あっという間に完成だ。


「お化粧ってすごいね、美玲」


「うん、すごい……!」


 鏡に映っているのは別人のようで、二人は互いを見たり鏡を見たりと忙しない。


「ドレスアップは終わったか?」


 ノックの音の後に入ってきたのはジャニファだった。


「ジャニファさん!素敵!!」


 かれんは悲鳴のような声をあげて飛び上がって喜んだ。


「二人とも見違えたな。サトルたちも驚くんじゃないか?」


 そんなかれんに苦笑するジャニファもまた、普段とは違いドレスアップしている。


 彼女がら着ているのは薄紫のオフショルダーマーメイドドレスだ。


 長く伸びた金の髪には紫の花が飾られている。


「これ、私とネフティから。パーティーでつけて欲しいと思って作ったんだ」


「わっ、キレイ……っ!」


 ジャニファが持ってきたのは、火晶石と水晶石て作られた二種類のイヤリングとネックレスだ。


「いつの間に?私、ジャニファさんたちのところにいつも行っていたのに全然気付かかなったです」


「気付かれたらサプライズにならないだろう?」


 驚くかれんにジャニファが笑う。


「サトルたちにも、彼ら用のアクセサリーをネフティが持って行った。お互いの姿を見るのを楽しみにしているといい」


 二人にアクセサリーをつけながらジャニファが言った。


 市原の名前が出た時、昨夜の気まずい気持ちを思い出した美玲は顔を曇らせた。


「ジャニファさん、ありがとうございます!」


 かれんは感極まって声を詰まらせながらいう。


「ではひと足先に私は行っている。また後でな」


 そう言ってジャニファは退室して行った。


 美玲たちを着飾った妖精たちも退室し、パーティーが始まるまでこのまま待つよう言われた。


 さっきまで慌ただしかった空気が急に静かになる。


 美玲とかれんは、朝起きてから軽食を部屋で取らされ、そのまますぐにドレスに着替えさせられ、今に至る。


 ようやく二人きりになれた、と美玲はほっと息をついた。


 昨夜、市原と別れて部屋に戻った美玲は、市原に告白されたことをかれんに相談しようと思っていた。


 しかしあれこれ考えているうちに、かれんを待たずにいつの間にか眠ってしまったのだ。


 朝起きてからは妖精たちが近くにいたし、市原とのことを話すタイミングもなかった。


 今だ、と思って美玲が口を開こうとした時。


「あのさ美玲、聞いてくれる?」


 かれんが先に言ったので、美玲は後でいいか、と頷いた。


「どうしたの?」


「あのね、私、志田くんとね……!」


「へ?志田?!」


 かれんは市原のことが好きだとずっと思っていた美玲は、予想外の名前にとても驚いた。


「え、志田?市原じゃなくて、志田?」


 何度も確認をする美玲の驚きぶりにかれんは笑う。


「実はね、一緒に技を使ったりしてるうちにね、私、志田くんのこと好きになっちゃったの。それでね、昨日工房で、志田くんも同じ気持ちってわかったのっ……キャー!」


「いたっ!」


 興奮したかれんは体をくねらせて美玲の背中を叩いた。


「お、おめでとう」


 全く痛くなかったが、衝撃で少しよろけながらも、美玲はかれんを祝福した。


「それで、志田くんから聞いたんだけど……美玲の方はどうなったの?昨日市原くんに告白されたんでしょ?」


 キラキラと瞳を輝かせてかれんが言う。


 恋愛話が好きなかれんらしい反応に、美玲は苦笑した。


「それなんだけど……」


 美玲はかれんに昨日のことを話した。


 ようやく話せたことにスッキリしつつ、市原のことを好きだったかれんから、どんな反応が返ってくるか不安だった。


「そっか、そうだよね。美玲はフレイズさんが好きなんだもんね」


「市原もそれは知ってるから返事はいらないって言ってくれたんだけど、ね……なんとなく気まずくて。それに、市原は諦めないとかなんとかって……あたしどうしたらいいのかな」


 正直、今朝の朝食は男女別々で美玲はホッとしていた。


 振った相手と顔を合わせたら何を言ったらいいかわからなかったし、気まずかったからだ。


「いつも通りでいいんじゃない?」


「へ?」


「だって、それでいいって市原くんも言っていたんでしょう?」


「う、うん……」


「変に態度を変えたりするのも良くないと思うよ。だから、今日はみんなでパーティー楽しむことだけ考えよう!ね?」


 そう言ってかれんは鏡台に置かれたレースのグローブを美玲に手渡した。


 肘のあたりまでの長さのグローブを通す。先ほど塗ったマニキュアがレース越しに見え、涼やかだ。


「そう、だね。それもそうだね。せっかくのパーティーだもんね!」


「そうそう、もったいないよ!」


 そのとき、扉をノックする音が聞こえた。


「はーい?」


 2人が扉を開けると、そこには着飾った市原と志田がいた。


 まるで物語の王子様みたいな格好をした二人を見て、驚いた美玲とかれんはポカンと口を開けた。


「な、なんだよ、その顔……」


「似合わない、かな……」


 市原と志田が困ったように顔を見合わせていうので、美玲とかれんは首を振った。


「いや、そうじゃなくて、ねえ……すごい、とおもって」


 美玲はなんと言ったらいいかわからず、すごい、としかいえなかった。


「うん、二人ともかっこよすぎてびっくりしちゃった!」


 かれんがいうと、男子二人は照れくさそうに頭を掻いた。


「久瀬たちも……その、お姫様みたいで……その……」


 志田は「久瀬たち」と言いながらも、かれんしか見えていないようで、顔を赤くしながらもじもじしている。


「素敵だなんてそんな、志田くんもとても素敵だよ!」


 もう二人の世界になってる……と、美玲はかれんと志田から飛んできた目に見えないはずのハートを手ではらった。


「あいつら、俺たちのこと見えてなさそうだな……」


 市原も同じくハートをはらいながら笑う。


「そうだね……」


 美玲も苦笑して頷いた。


「それじゃ、ほら」


「ん?なに?」


 市原は肘を曲げて差し出した。


「エスコートしろって。よくわからないんだけどこうやってとりあえず一緒に会場に来いって言われたから迎えにきたんだけど」


「腕、組めばいいのかな?」


「俺とは嫌?」


「そんなこと……!」


「じゃあ、ほら。志田たちはもう行ってるから」


「えっ?」


 二人の世界に入りきっているかれんは、いつのまにか志田と腕を組んで廊下を進んでいる。


「し、失礼します……」


 美玲は意を決して市原の腕に手を通し、歩き出す。


 ヒールは低いけれど、初めてだから少し歩き辛い。


 そんな美玲を気遣うように、市原は歩調をゆっくりにしてくれている。


「永倉、少しは俺のこと考えてくれてたりする?」


「市原のことは好きだよ。でも友達としての好きだから、それ以上はないよ……ごめん」


「もー、永倉は手強いな」


 市原は明るく笑う。でもふと、口調を落とし、真面目な声で言った。


「永倉、フレイズに自分の気持ち、ちゃんと言っとけよ。俺たちは元の世界に帰らないといけないんだから……またいつ会えるかもわからないだろ」


「市原……」


「ま、もしダメだったら俺がいるからな!気楽にいけ、気楽に」


「……ありがとう、市原」


 こんなに優しくて思いやりがあるから、市原ひモテるのだろうな、と美玲は改めて思った。


「パーティー、楽しもうな!」


「うん……!」


 そうして二人もまた、かれんたちを追ってパーティー会場の中庭へ急ぐのだった。


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