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夏休みに妖精の世界を救うことになりました!  作者: 小日向星海
夏休みに妖精の国を救いました!
207/215

夏休みに妖精の国を救いました!④

「あっ、二人ともまだここにいたんだね」


「久瀬おはよ。永倉は?」


 志田の問いかけに、かれんは黙って首を振る。


「あいつが一番大変だったもんなあ」


 志田の正面に座る市原がスープをすすりながらいった。


 四人が謁見の間で寝落ちしてから、1日。


 美玲より早く目覚めたかれんは、志田と市原が先に食事をしていると聞いて食堂にやってきたのだ。


 部屋を出る前に美玲の様子を伺ったが、深い眠りに入っているようで話しかけても返事はなかった。


「精霊王を呼び出したり、演奏したり……私たちの何倍も力を使って……このまま目を覚さなかったらどうしようって……モゴッ」


 かれんの目に滲んだ涙は、市原にパンを突っ込まれた驚きで引っ込んでしまった。


「久瀬、何言ってるんだよ、あいつなら大丈夫だろ」


「お腹空いてるとネガティブなことばかり考えちゃうもんな。久瀬もここに座ってなんか食ったら?」


「ん、ほうふる……」


 かれんは志田に隣の席をすすめられ、おとなしく座り、もそもそと口を動かして豆パンを食べ始めた。




 規則的な寝息を立てながら、美玲は眠っていた。


 そよそよと吹く風がカーテンを揺らし、顔にかかる木漏れ日を時折遮る。


 眠る美玲の前髪をサラリとなぞるのはフレイズだ。


 美玲たちへの感謝の気持ちを込めたパーティーは城の中庭で、ガーデンパーティーとしてひらくことがきまって、フレイズはその準備の一員として動いていた。


 その準備の合間に、フレイズはこっそりと美玲の様子を伺いにきていた。


 換気のため開いていた窓からこっそり入り、何度か名を呼んでみたが反応はなかった。


「ミレイ……」


 早く目覚めて欲しいけど、目覚めたらパーティーまでの時計が動き出してしまう。


 それは美玲との別れの時が近づくのを意味している。


 妖精の国と人間の世界は隔てられたままで、あちらの世界に戻ったら次に会えるのはいつかわからない。


 眠ったままならば、ずっとこの世界に美玲をとどめられるのに。


 込み上げてくるそんな黒い気持ちを押し殺し、フレイズは息を吐く。


 ずっと眠っていて欲しいだなんて思う一方で、早く目を覚まして、その瞳に自分を映して笑いかけて欲しい、その声で名を呼んで欲しい。


 正反対な願望は次から次へと、困ったくらいにあふれてくる。


 別れの時が来るのは嫌だけれど、やっぱり元気な姿が見たい。


「ミレイ……」


「あらあら、これはどうしたことかしら」


 葉のざわめきだけが聞こえていた部屋に、女性の驚いた声がひびく。


「ミアラ殿」


 扉を閉めたミアラは「あらあらまあまあ」と言いながら、花を生けた花瓶をサイドチェストに置くと、フレイズに詰め寄った。


「窓から入るなんていけない方ですね!そもそも相手は子どもとはいえ女性なのですから、殿方は就寝中の来室をご遠慮なさるのがふつうですわよ?」


 ミアラはにこやかに、だがその声に怒気を仄めかせていう。


 だがそんなことはどこ吹く風というように、フレイズはにっこりと微笑んだ。


「……もう会えなくなるだろう?少しくらい、大目に見て欲しいな」


 風天ヴェンティ譲りの美貌でダメ?と手を合わせるが、精霊王を見慣れたミアラには通用しなかった。


「ダメです。さ、騎士団の皆さんは準備があるのでしょう?あなたも中庭に行ってください」


「でもまだ目覚めないのが心配で……」


「そりゃあれだけ立て続けに力を使ったりしましたからね!ゆっくり休ませてあげて欲しいものですわ」


「しかし……」


「大丈夫ですわ。お腹が空いたらきっと目を覚ましますから。さ、あなたは準備に戻る!」


 ほらほらとミアラはフレイズの背を押して窓から出すと、そのままパタリと閉め、鍵をかけてしまった。


「……ミアラ?」


「あら、目が覚めたのね、ミレイちゃん」


 まだ眠いのか、横になったまま半分眠っているような様子で美玲はうとうとしている。


「フレイズの声がしたけど……来てたの?」


「さあ、風の音じゃないかしら?」


 そう言って、ミアラは風で動いたカーテンを閉める。


「そっか……渡したいものがあったんだけど……」


「まだ眠いのでしょう?さあ、もう少し眠って。ドレスもまだできていないから、パーティーはまだよ。ちゃんと起こすから大丈夫、寝なさい」


「うん……」


 ミアラに言われるがまま目を閉じた美玲はすぐに寝息を立て始めたのだった。


 それから美玲が目を覚ましたのはその半日後だった。


「おなかすいたぁ……」


 ミアラの予想通り、美玲が目を覚ましたきっかけは空腹だった。


「朝食の時間だから、カレンちゃんたちは先に食堂に行って食べているわ。ミレイちゃんも食堂に行く?それとも、この部屋に運びましょうか?」


「しょくどういく……」


 お腹が空きすぎて声に力が出ないけれど、かれんたちがもう起きているならすぐにでも会いに行きたかった。


「美玲〜!起きたんだね、良かった!話しかけてもずっと反応ないから心配したよ〜!」


「ほら、な!大丈夫だっていっただろ」


 美玲が食堂に着くと、食事の手を止め、半泣きのかれんが抱きついてきた。


 その後ろでは市原と志田が安心したように笑っている。


「え、起きたのってあたしが一番最後だったりする?」


「そうだよ〜!全然起きないから、ほんと、私……」


 かれんは目を潤ませて俯いてしまった。


 ものすごく心配をかけたのがわかり、美玲は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。


「かれん、心配かけて……」


 ぐぅううううう。


 ごめん、と言おうとした時、盛大に美玲のお腹がなった。


「ごめん……」


 美玲は顔を真っ赤にしてつぶやいた。


「それどっちのごめんなのよ〜!ていうか、別に謝ることでもないでしょ、も〜!」


 かれんだけでなく、市原も志田もあまりに大きな音に腹を抱えて笑っている。


「お腹が空くのは元気な証拠ですわ。さ、皆さん座って」 


 妖精たちと一緒に、美玲の分の食事を運んできたミアラがパンパンと手を叩いて言う。


 運ばれてきたのはフルーツが練り込まれたパンとハーブサラダ、そら豆のポタージュ、それからサルビアの花蜜ジュースだ。


「いただきますっ!」


 美玲は手をパチンと合わせると、スプーンでポタージュをすくって口に運んだ。


 優しいそら豆の甘さがじわりと広がり、お腹の芯から温まっていく。


 フルーツパンをかじり、花蜜ジュースを飲む。


「あらあら、あまり急いで食べるとお腹がびっくりするわよミレイちゃん」


 ミアラが苦笑していう。


「だってお腹ぺこぺこなんだもん……!」


 どの料理も美味しくて手が止まらない。


 でも食事が喉につっかえそうになり、慌てて花蜜ジュースをのんだ。


「そうだ、みんなは起きてから何してたの?」


 胸をトントンと叩いて落ち着いてから、美玲は3人にたずねた。


「私はジャニファさんたちのところで精霊石見せてもらってたよ。今日もこれから行こうかなって思ってるんだけど、美玲も一緒に行こうよ。綺麗なのがたくさんで楽しいよ」


「へー、おもしろそう!」


「俺たちはフレイズとパーティーの準備したり、な」


「うん。騎士団と一緒に行動してた」


「へぇ、そうなんだ」


 市原からフレイズの名前が出て美玲はどきりとする。


 そういえばフレイズにも会いたい。


 会えたらミサンガを渡したい。


(よろこんでくれるといいな……)


 美玲はそんなことを考え、ポケットの中のミサンガをズボンの上からキュッと握った。


「パーティーの会場、城の中庭だって。楽しみだよな!」


「そうそう、お庭でパーティだなんて、どんなパーティーなんだろうね」


 志田がいうと、かれんがウキウキと言った。


 美玲たちはアニメや絵本ではお城の中でパーティーするものしか見たことはない。


 外でやるパーティはどんなものだろう、と想像しようとしても、全く四人は思い浮かばなかった。


「ごちそうもきっと、すごいんだろうな」


 市原の言葉に残り三人もうんうんと頷いた。


 もうご馳走しかわからない。あとは何をするんだろう。


 学校のお楽しみ会だとハンカチ落としやフルーツバスケットとかやっていたけど、妖精の国のパーティーは全く想像もつかない。


「やっぱりダンスとかするのかなあ」


 かれんがいうが、ダンスなんて四人とも運動会で踊るマイムマイムくらいしかしらない。


「あらあら、ふふふ……」


 ミアラはお茶を飲みながら、あーでもないこうでもない、と話す四人にくすくすと笑っている。


 そこへ美玲たちの採寸をしたお針子の妖精たちがやってきた。


「お食事中失礼します。みなさまの衣装が仕上がりました。お食事が終わりましたら衣装合わせをしていただきたいので、縫製室ほうせいしつへいらしてください」


「あ、はいわかりました」


 志田が四人を代表して返事をする。


 志田の返事を受け取ると、妖精たちはお辞儀をして食堂を出て行った。


「──で、ホウセイシツ……ってどこ?」


 志田の疑問にみんなして首を傾げる。


「大丈夫よ、私が案内するわ。だから安心して、まずは食事をきちんたべましょうね」


「はーい」


 ミアラはまるで先生みたいだな、と思いながら四人は返事をしたのだった。


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