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現れたのは…

女王の檻は高い位置にあり、金木犀の枝も広がっていてとても大きい。


「どうやってお城まで連れて行くんですか?」


「木に絡んでる金木犀の枝を切って、魔法で一気に運ぶんだよ」


騎士たちはそれぞれ羽を広げて飛び上がると、木に絡んだ金木犀の枝の部分を切り落としていく。


「太い部分は最後に切るんだ。間違えないよう、気をつけな!」


セレイルは地上から指示を飛ばす。


枝を切り離し終えたとき、女王が地に落ちないように騎士団の土部隊が大地に魔力を作用させて草でクッションをつくっている。


「よし、じゃあ俺が一気に進めてやるかな」


ベルナールが大剣の鞘を払い、飛び立とうとした。


「ベル、待ちな」

「なんだよ!」


しかしセレイルがその襟首を掴み、飛び立つのを止める。


勢いを失い、ベルナールは前のめりになって止まったが、勢いづいていたため首がしまったのか、軽くむせている。


「ちょいと周りを見てみな」


「あん?お、霧がさらに深くなってきているな」


止められた理由を悟り、大剣を構えなおした。


「まずいね。警戒を。みんな、陛下を守るんだよ!」


アイーグが出る兆しと言われている、どんどん深くなる霧を警戒して騎士たちは女王の檻の周囲に、剣を抜いたフレイズは女王の檻の真下にいる美玲と市原のそばにたつ。


セレイルとベルナールはさらにその前に出て、周囲を警戒した。


静寂の中、霧だけがどんどん深くなっていく。


「また群れが出てこなきゃいいがなぁ」


ベルナールがぼそりと呟き、大剣を構え直した時だった。


突然、赤い炎が近くの茂みを燃やし始めたのだ。


「な、炎だって?!」


慌てて水部隊の騎士たちが水精霊ウンディーネを召喚し、燃え広がる前にそれぞれの近くにある炎を消し去る。


アイーグではなく、予想外の炎の襲撃に、皆一体何が起きたのだろうかと辺りを見回す。


霧がだんだんと晴れてきて、炎の進路をたどり、視線を向けるとそこには、金で縁取られた黒い服に、真紅のフレアスカートを履いた、黒髪を編み込みにした少女がいた。


「かれん…?!」


目を凝らしてよく見れば、それはよく知る親友だった。


「かれん!」


だが美玲が呼びかけてもかれんは表情一つ変えず、武器と見られるバトンを構えた。


「うわっ!」


それを振るうと螺旋状になった炎がバトンの先端についた紅い宝石から現れ、飛んでくる。


水盾アクア・シールド!」


セレイルたち水部隊の妖精騎士たちが唱え、大きな水の壁を作る。螺旋の炎は打ち消されて水の盾とともに蒸気となって消えた。


「水を相殺するとは…」


フレイズが唸る。


「どうかしたの?」


「火の弱点は水なんだ。普通であれば水の力が勝つはずなんだけど、あの子の炎に水部隊全員で作った水の壁が消されてしまったんだ」


「あの子がミレイちゃんたちのお友だちだろう?さすが、人の子といったところだね」


悔しそうなセレイルの言葉だが、どこかすこし嬉しそうな響きがあった。


「あれほどの力であればあの子もまた、上級ハイ・クラス精霊スピリットを召喚できるんだろうね。これで女王陛下を救える道が見えてきたよ。きっともう一人もあれくらい強いんだろうね」


「ただ、いまはちょっと様子がおかしいみたいだがな。とにかく、あの子も保護しないとな。野郎ども、あの少女を捕縛せよ!風霊鎖シルフィー・チェーン!」


蒸気が消え、隙が見えたところに風部隊が風の鎖を作って飛ばす。


「やめて、かれんに何をするの!?」


風の鎖はまっすぐかれんの元に飛んでいく。だがかれんは避けようともしない。

虚ろな目でただ前を見つめているだけだ。


そこへ、大地の壁が隆起して、それは防がれた。れきとなった土屑つちくずがもうもうと土埃つちぼこりを上げる。


「風まで地の力で打ち消されるとはね…!思った通りだよ」


「風も地に強いの?」


「そうだよ。風は何ものにも縛られない自由なものさ。でもその自由を地の力が阻んだ…」


それが晴れると、今度はそこに一人の大柄な少年の姿があった。


少年もまた、黒地に金の縁取りが入った服を着て、手にはサッカーで使うキーパーグローブのようなものをはめていた。


大地でかれんを守るように立つ、ツンツンとした癖のある髪と、特徴的な少し釣り気味の目を持った少年は…。


「志田?おまえ、志田だろ!」

「………」


それは市原の言う通り、確かに学校の前庭で一緒に歩いていた志田だった。


だが親友の市原がよびかける言葉にはかれんと同じく無反応で、ぼんやりとした表情で前を見ているだけだ。


志田は大きく跳躍すると、木の上にいるかれんの隣に降り立った。


「ええーっ?!」


あまりにも人間離れした技に美玲も市原も口をあんぐりとあけた。


「あれは地精霊ノームの力だよ。彼は地属性を持っているんだね」


「ノーム…」


フレイズの言葉をおうむ返しして呟いた。


「炎の少女に、地の少年。これで四属性をもつ人の子がここに揃ったってわけかい。トルト様の狙いはこれだったのかね」


「そういや、トルトさんは相反する属性同士は引き合うって言ってた。俺たちが森に行けば、もしかしたら手がかりが見つかるかもって」


城で家に帰れないと知って呆然としていた時、市原とトルトはそんな話をしていたのかと、美玲はかれんを見つめた。


水属性の美玲と、火属性のかれん。

風属性の市原と、地属性の志田。


なぜあの二人は妖精の国にたどり着かず、見たこともない服を着て、武器のようなものを持ってここに現れたのだろう。


しかも、意識はないようだ。まるで何かに操られているようにも見える。


「手がかりどころか、本人がでてきたのは幸運だが、明らかに正気じゃないな。女王陛下をお連れするにもとにかくあの二人をなんとかしないことにはどうにもならんようだぞ」


話している間にもかれんはバトンから火の玉を作り出し、矢のように降り注がせてくる。


それを水部隊が先ほどと同じように水で壁を作り、すべて消し去る。


「そうだね、相手は人の子だ。気合い入れていくよ!」


セレイルの号令に、騎士たちはそれぞれの武器を構えた。


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