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夏休みに妖精の世界を救うことになりました!  作者: 小日向星海
眠りの呪いを断ち切るために
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負けない決意を

 風天ヴェンティ火天フィアの魔法は合わさって、紅蓮の嵐となり美玲たちに襲いかかってきた。


 美玲の魔法で作り出した水鏡は、ミアラに強化されていつもより分厚く大きい。


 しかし、炎の嵐の大きさは美玲が作り出した水鏡よりも何倍もおおきくて。


(大丈夫、かな……)


 目の前に迫る炎の、その大きさを前にして、美玲は足がすくんでしまった。


 少し離れた場所にいる志田を見ると、彼は地天アルスの放った岩の波を防ごうと水晶の壁をつくりだしている。


 そして水晶の壁に砕かれた岩のかけらを、かれんが放った炎の矢が撃ち抜いていく。


(二人とも、すごい……!)


「永倉!」


 そんな時、ふわりと頬を風が撫でた。


風舞テンペスタ!」


 いつのまにか隣に立っていた市原が唱え、風の防壁が水鏡を引き伸ばし大きくする。


 荒ぶる炎は水と風の防壁に飲み込まれ、消滅した。


「大丈夫か?」


「市原……ごめん」


 弱気になった気持ちを隠すように美玲はうつむいた。


「そっちは大丈夫か市原、永倉!」


「大丈夫だ。そっちは?」


 声を張り上げる志田に、市原もこたえる。


 三天が放つ魔法の音がすさまじく、大声を出さないと会話にならないのだ。


 かれんたちとの間には地天アルスが放ち、防げなかった岩が転がっていて合流できない。


「なんとか、な!」


 矢継ぎ早に放たれる三天の魔法を先ほどと同じように、美玲が水の鏡を作り、市原がそれを大きくして守る。


「あのさ、永倉さ、自分だけ四天の力がないとか気にしてんのかよ」


「それは……」


 その通りだ。


 水天アクアはまだ存在しているから、美玲はかれん達のように四天の力をもらうことはできなかった。


 だから、どうしても自分が足手まといになってしまうような気がしてならないのだ。


「永倉は足手まといなんかじゃないぞ」


「え?」


 心を読んだのかと驚き、見上げた市原の顔はとても頼もしく見えた。


 炎の嵐に照らされて、まぶしそうに

「今だって、永倉はあの三天の魔法から守ってくれただろ」


「でもそれは……」


 市原が力を貸してくれたからだと、そう言葉を続けようとした美玲を遮り、市原は口を開き、続ける。


「フレイズ(あいつ)とも約束したんだから……こんなところでまけていられないだろ」


「……そうだね、がんばらないとね」


 その言葉に、美玲の脳裏に浮かんだのは、深い眠りにつくフレイズの顔だ。


 常夜の国にはほかにも衰弱し、やがて消えてしまう呪いをかけられた妖精たちがいる。


 月光の精霊バライダルと陽光を司る精霊王が彼らをこの世に繋ぎ止めてくれているが、バライダルと精霊王の力も無限ではない。


(市原の言う通りだ。こんなところで負けていられない……)


 美玲は拳を握り三天の背後にいる水天アクアを睨んだ。


水天アクアの思い通りにはさせない、絶対に……!)


 美玲の視線気づいた水天アクアが何かを感じ取ったのか、不敵な笑みを浮かべた。


「よそ見をするな、水天アクア!」


 ジャニファが怒声をあげ、雷を纏った剣を振るう。


 雷を纏った剣を振り下ろそうとしたジャニファだったが、その剣先が届く前に水天アクアがひらりとかわす。


 そのことにホッとしてしまい、ジャニファは悔しそうに唇を噛んだ。


「怖いだろう?姉の体を傷つけるのは」


「だまれ!」


 見透かすような水天アクアの言葉にジャニファが怒鳴る。


 姉の姿をした目の前の敵を斬れば、姉の体は傷ついてしまう。


 ジャニファとしては、姉を無傷で救い出したいのだが……。


『甘いわ!』


 高笑いをした水天アクアが杖で突いてくる。


 トルトは細腕だが、その身に宿す水天アクアの力のためかそれはとても重いひと突きだった。


 衝撃で弾き飛ばされたジャニファは背中を謁見の間の扉に打ちつけ、一瞬息ができなくなり、激しくむせた。


『この杖には妖精の女王の髪も入っているからな。魔力も桁違いよ』 


 水天アクアは見せつけるように杖の先端についた宝珠を撫でた。


『なあ、儂をもっと楽しませてくれよ。貴様たちが探している記憶の書もこの中にあるのだぞ……?』


「なんですって?!」


 語気を強めるミアラをジャニファが片手で制した。


「それはよかった。探す手間が省けたというもの……だがいいのか?それを我々に教えてしまって……一体何が目的だ!」


『何、そうした方が面白いだろう?それに、これを取り戻せなかった時、無力感に襲われるであろう貴様たちの表情かおを見るのも楽しみだ』


 ジャニファの怒りが混じった強い口調も気にならないようで、水天アクアはニヤリと笑いながら言った。


「っ、この……!」


 その言葉にジャニファは顔を怒りでさらに赤く染めた。


『そうして貴様たちは悔やみながら消えていくのだ。“やはり水天アクアの言う通りだった、異種族との恋愛の蔓延はびこった世界は滅ぶべきだ”と」


「悪趣味ですわ、水天アクア様!あなただってかつては……!」


『過去の話だ』


 ミアラの言葉にピシャリと言う水天アクアはどこ吹く風。


 表情も変えずに言い放った。


 ジャニファは悔しさと怒りを膝に、力をこめてなんとか立ち上がる。


 すぐにでも水天アクアに飛びかかりたいのだが、壁に背を打ち付けたとき羽根を痛めたのだろう。うまく動かせなくなってしまった。


「く……っ」


「ジャニファ様、いま回復を!」


 ミアラがジャニファに駆け寄り、素早くハープの弦を弾き回復の呪文を唱える。


水癒唄マーレ・カントゥス


 青いシャボン玉がジャニファの羽根に触れ傷口を癒していく。


「ジャニファ様……」


 心配そうなミアラに片手を上げ、ジャニファは大丈夫だと首を振った。


 お陰で羽根の痛みも無くなり、ほんの少しだけど冷静さをとりもどせた気がする。


「兎に角あの杖だ。あの杖には記憶の書だけでなく、女王陛下の御髪おぐしの力も吸収されている。あの杖を破壊しなければ、我々は勝てない。だが……」


 ジャニファが杖の宝珠を破壊するまで美玲たちが耐えられるか、それだけが気がかりだった。


 特に美玲。


 美玲は水天アクアをトルトの体から引き離す切り札だ。


 なんとしても、四人には三天を倒し合流してもらわなければ。


「大丈夫ですわ。あの子たちを信じましょう。私たちは私たちにできることをするのです」


 ジャニファの気持ちを察したのか、ミアラは両手を拳にしてガッツポーズをした。


「そう……だな」


 ジャニファは美玲たちへと視線を向け、ミアラの言葉にうなずいて。雷を纏った剣を構えた。


『回復は終わったか?わざわざ待ってやったのだ。その分楽しませてくれよ?」


「後悔することになるぞ、水天アクア!」


 ジャニファは叫び、大きく跳躍した。

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