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夏休みに妖精の世界を救うことになりました!  作者: 小日向星海
眠りの呪いを断ち切るために
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まどろみの呪い

 

 フレイズによしよし、と頭を撫でられ気持ちが落ち着いたのか、市原は涙を拭って顔をあげた。


 あまり男子の泣き顔を見たことのない美玲は見てはいけないもののように思って泣き顔を見ないように気をつけた。


「フレイズ、あまり無茶すんなよ」


「うん、心配かけたみたいで、ごめんね?」


 まだ少し揺らぐ声で拗ねたようにいう市原にフレイズが謝ると、市原は「よし」と立ち上がった。


「俺、志田たちのところに行ってくる」


「あ、うん」


「あ、俺もみんなにお礼言わないと……」


「フレイズは回復したばかりなんだから休んでおけって。後でまた呼びにくるから」


 そう言って、市原は嬉しそうに志田のところへ報告に行き、砂浜には美玲とフレイズが二人きりでのこされた。


「あ、あたしもかれんのところに……」


「待って」


 二人きりになるのがなんとなく恥ずかしくて、市原に続いて立ち上がろうとした美玲の手を握り、フレイズが引き止めた。


「もう少しそばにいて欲しいんだけど……ダメ?」


「ダメじゃ……ない……けど」


 言葉を濁した美玲だったが、フレイズの懇願するような視線を受けて、その隣にまた座った。


 二人きりだということを意識した途端、美玲はなんだか急にドキドキしてフレイズの近くにいるのが恥ずかしくてたまらなくなった。


 二人で星空を眺めていると、ブレスレットをもらったあの日のことを思い出す。


 女王ユンリルを目覚めさせる儀式の前日にフレイズが美玲を連れ出して丘の上へと連れていったことだ。


「あ、ブレスレット……」


「ブレスレット?)


風精霊石シルフィストーンが、フレイズの力になると思って使ったの。ブレスレットは無くなったけどフレイズが助かってよかったよ」


 その言葉に、フレイズは目覚める前に胸の辺りに温かな感覚が広がったのを思い出した。


 あれは美玲がブレスレットをフレイズの胸に置いたからだったのだ。


 風天ヴェンティの力を大幅に失ったフレイズに、風精霊石シルフィストーンから流れ込んだ風の要素があの温かさだったのだ。


 あのブレスレットがあったから、消えかけていたフレイズの意識を繋ぎ止められたと言っても過言ではない。


「ブレスレットはまた作るよ。そしたらプレゼントさせて」


「本当?ありがとう」


 そう言うと、美玲は嬉しそうに笑った。


(ああ、よかった)


 フレイズはその笑顔をみてホッとした。


 泡花に乗せて別れてからずっと気がかりだったのだ。


 泣き顔で別れてしまったから。


 でもこうして笑顔で会えて、心底良かったと思うし、もっと美玲の笑顔が見たいと思った。


 幼い頃から見守ってきた美玲と、この先もずっと一緒にいたい。


 できることならそばにいて、危険から守ってやりたいし悲しい思いはさせたくない。


 そんな強い思いがフレイズのなかでうまれていた。


 そしてこの強く、熱い思いはいったいなんなんだろう、と考える。


 ほかの召喚された人の子たちももちろん大切な存在だが、彼らに向ける感情とは違う何かが美玲に対してだけはあった。


「あ、そうだ、ブレスレット作ってくれるなら、かれんたちにも作って欲しいな」


「そうだね、そうしようか」


 水天アクアを倒したらもう別れなくてはならない。


 そう思うと切なくて寂しくて、どうにかなりそうだった。


「ミレイ」


 涼しい潮風が優しく吹く。


 サラサラと美玲の髪が静かに流れる。


「そろそろみんなのところに行こうか」


 本当はまだ二人で一緒にいたいけど、日も沈んだしどこか体を休めるところに行ったほうがいい。


 立ち上がり美玲に手を伸ばしたそのとき、フレイズを突然強い眠気が襲ってきた。


 強制的に眠りにつかせようとする見えない力がフレイズにまとわりついていて、抵抗しようにもできない。


(これは……)


「フレイズ、どうしたの?!」


 異変に気づいた美玲が呼びかけるが、返事をする力ももうなかった。


「……ミレイ」


 声を振り絞ってそれだけ言うと、フレイズは目を閉じた。


「フレイズ?!」


 最悪の事態を考えた美玲だったが、規則的な呼吸音がきこえてフレイズが眠っているのだと気づいた。


(でも様子がなんだかおかしかった……)


「おい永倉、どうしたんだ?」


「わからない……話をしてたら急にフレイズが倒れて……」


 駆けつけた市原たちに尋ねられ、美玲は首を振りながら答えた。


「さっき、フレイズさんはおきたよね?……まさか水天アクアの呪い?」


 かれんはそう言って首をかしげた。


『それか、記憶の書をいじられたかのどちらかだな』


 精霊王が唸る。


『妖精の国の記憶の書は、妖精たち全体の共通意識に働きかけることができるのは知っているな。水天アクアは女王を追いやった後、自分の都合の良いように妖精たちの記憶を書き換え、自分の邪魔になりそうな奴らは国から追放し、眠らせていたからな』


「じゃあ常夜の国にいた妖精たちは皆んながみんな、恋愛が原因でいうわけではないってこと?」


 かなりの数の妖精たちが常夜の国で眠っていたのを四人は思い出した。


『それは水天アクアにしかわからんが……まあ記憶の書の正しい使い方ではないな』


 どちらにしろ原因は水天アクアのようだ。


『とにかくこの妖精をすぐにバライダルの元へ運べ。衰弱させて最終的には消滅してしまう』


「消滅……」


『あとかたもなく消えると言うことだ。眠りと夜を司る月光の精霊バライダルが妖精たちを保護しているはずだ、そうだろ?ジャニファとやら』  


「は、はい」


 急に名を呼ばれ、驚きつつもジャニファは返事を返した。


「美玲、しっかり」


 精霊王の「消滅」という言葉にぼんやりしていた美玲は、かれんに背中を叩かれハッとした。


『ならば急ぐぞ』


 そう言って精霊王はフレイズを肩に担いだ。

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