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狭間の番人③

「う、動けない……」


 大縄跳びの縄ほどの太さのツタに巻きつかれた四人はなんとか抜け出そうと身を捩るけれども、動けば動くほどそのツタは何かの意思を持っているかのように、美玲たちを逃すものかとさらにキツく巻きついてくる。


「おかしいだろ、なんだよこれ……っ!」


 そのツタの気味の悪さに市原が叫んだ。


「みんな動かないで、今炎で焼き切るから」


「あら、させなくてよ」


 かれんがそう言うのと同時に聞こえた声。


 穏やかな中にも鋭い色が混ざるその声の主を確認するまもなく。


「いふぃ……ぐむっ」


 呪文を唱えさせるものかとそのツタが、かれんだけではなく他の三人の口も塞いだ。


 ツタですまき状態になった美玲たちの前にピンクルとティンクルが飛んできた。


「さあ、おかえりはこちらからどうぞ」


 ピンクルの手か示した場所にはぽっかりと空間に穴が空いていて、その向こうには見慣れた詩葉しるば小学校の校庭が見える。


 たが言葉が発せない四人は必死で首を振った。


 帰らない、と言う意思表示をするために。


 ようやくミアラがいる場所にたどりついたのだ。


 ここで帰るわけにはいかない。


「あのね、キミたちに選択権はないの。元の世界に帰るっていう一択しかないの、わかる?」


 ティンクルが腰に手を当てて、四人を至近距離から見つめて言う。


「話しても仕方ないか。ピンクル、やっちゃって」


 ティンクルが言うと、ピンクルが手をサッと振った。


 するとツタがほどけ、手首、足首だけつかんだ状態で空間の穴の方へと四人を運ぶ。


「おい、や、やめろよ!落ちちゃうって!」


「いゃああああっ、やばい、やばいってぇ!」


「危ない、危ないから!」


「やーめーてーよ!」


 四人は振り下ろされまいとツタに抱きついた。


 そんな四人を振り解こうとするツタは上下左右に揺れる。


「ねぇ、ちょっと、なんでうちらの邪魔するの?!あなたたちもミアラを助けたいんじゃないの?」


「邪魔だって?邪魔をしているのはキミたちの方さ!ミアラは精霊王がここで守っているんだから」


 美玲の問いかけにティンクルは鼻白んで言う。


「そうですわ。三世界の狭間にあるここは、精霊王が作り出した場所で、四天の誰にも手出しできない場所なんですのよ。だからミアラは今まで水天アクアにも見つからずに過ごして来れたのです」


 ピンクルも髪をサッと手で振ってから腕を組んで言った。


「ミアラの氷を溶かす方法は今、精霊王が水天アクアに従うふりをして探しているんだ。キミたちがやらなくても精霊王がミアラを氷から救うさ」


「いや、俺たちは風天ヴェンティから四天の力を使ってミアラを助けるようにって言われてきたんだけど……」


「ボクらにとって四天は敵だ。信用できないね」


 市原にティンクルは鼻で笑って切り捨てるように言い、ピンクルもうなずく。


「信じられないって……じゃあ、あんたたちはミアラをずっと氷に閉じ込めたままで平気なのか?俺らが言っていることを試しもせずに?」


 志田の言葉に一瞬だがティンクルとピンクルの表情が固まった。


「キ、キミたちの力で本当にミアラを助けられるかは疑わしいからね」


「疑わしいなんてそんな……嘘じゃないわ!」


 かれんの叫びに被せるようにティンクルが言葉を続ける。


「ボクたちだって何度もミアラを氷から助けようと試したさ。君たちがここにくるずっと昔に!精霊王が選んだ人の子たちとね。何度も何度も氷を溶かそうとして……でも、どうしても出来なくて……!」


「やはりミアラの暴走した水の力を抑えるには水天アクアの力が必要だと考えた精霊王は、方法を探るため水天の元へ行ったきり戻ってきませんし……」


 目を潤ませ言葉に詰まるティンクルと、口元を押さえて嗚咽するピンクル。


「だから、四天の力で助けられるって言ってんのに……」


 市原は呟き、口を尖らせる。


「それに、ミアラに万が一のことがあっては精霊王に顔向けできませんわ。ミアラのことはお気になさらず、どうぞ元の世界へお帰りください」


 ピンクルの言葉の後にぐい、と空間の穴へとツタが近づく。


 四人は隙を見つけてツタから逃れようと考えるが、振り下ろされないよう踏ん張ることで精一杯だ。


 武器もツタに埋もれ、精霊石も隠れていて、水皇セイレーンたちを呼べるかわからない。


「だから精霊王が戻るまで、ボクたちはここでミアラを守り続けるんだ……もうおしゃべりはおしまいだ。ピンクル、ボクらの最終奥義、いくよ!」


「ええ」


黄昏演舞ラグナロクワルツ


 二人同時に声を合わせて唱えられた呪文は、激しい氷と花の嵐を巻き起こすものだった。


 花と氷の嵐に押され、空間の出口が、小学校の校庭がちかづく。


 暑い夏の日差しに照らされたグラウンドは真っ白で、境目には陽炎がたっている。


 顔を背けて身をよじり、空間の穴を拒否する。


(これでおわりなんて……)


 ユンリルやポワンたちを救えず、このままフレイズにも会えないで……。


(嫌だ、絶対帰らない……!)


 美玲はツタを掴む手に力を入れた。


 だが氷と花びらの混じる暴風はさらに勢いを増していき、風天からもらった風のケープが外れてしまう。


 途端に襲う肌を切るような寒さに、ツタを掴む手の感覚が奪われていく。


「ほら、寒いだろ?痛いだろ?さっさと諦めて帰りなよ!」


(ああ、もう……力が……)


 その時だった。


 四人の武器に飾られている精霊石が輝き、水皇セイレーン炎帝イフリート風主ジン地王ランドが現れ、それぞれの契約者を暴風から守るように光で包み、ツタから切り離して雪原におろした。


 そして四体は空間の出口に攻撃すると、校庭への通り道は跡形もなく消えてしまった。


「上級精霊だと?」


「いいえティンクルちがうわ。彼らのまとう気配は四天のもの……でもそんな、まさか……」


 驚くティンクルとピンクルに、四人はまっすぐ視線を向けた。


「あたしたちは風天ヴェンティから四天の力を預かってきたの。お願い、あたしたちにミアラを助けさせて」


 美玲の言葉にティンクルとピンクルは顔を見合わせた。


「……本当にキミたちにミアラをあの氷から救うことができるのかい?」


「だから、試してみても損はないと思うけど?」


 市原の言葉にティンクルとピンクルの表情がかわる。


「わかりましたわ。でも、ミアラに何かあったらあなたがたを許しませんわ。わたくしたちも、精霊王も」


 ピンクルの静かな忠告に、美玲たちは頷いた。


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