美玲の危機①
勢いよく雪原に飛び込んだティンクルが拳を叩きつけると、巨大な霜柱が大地を割って現れ、轟音をたてながら四人に向かって突き進んでいく。
「うわぁあっ!」
突然現れた巨大な霜柱の襲撃に四人は逃げる間もなく突き上げられ、雪原に叩きつけられた。
柔らかな雪のおかげでダメージは少ないが、頬や腕などむき出しの素肌に当たる氷の粒は地味に痛い。
「一体何なの?」
雪から体を起こし、美玲はあたりを見回した。
儀式を中断されたためか武器の光は消え、水皇たち上級精霊のすがたもない。
かれん、市原、志田の三人ミアラの氷から離れた場所に落ちていて、雪の中でお互い探しているのかあたりを見回している。
「おーい!みんな大丈夫?」
おちていた武器をひろってから美玲が手を振ると、三人もそれぞれの場所から手を振りかえしてくれた。
美玲が体についた雪を払いながら立ち上がり、ミアラの氷の壁へ歩き出した時だった。
周りにあるのは雪だけで何も見えないが、再び地響きが聞こえ始めたのだ。
「また来るぞ、みんなここにあつまれ!」
ミアラの下に先にたどり着いていた志田が叫ぶ。
美玲の背後には予想以上に早く霜柱が迫っていた。
(もう、だめ……間に合わない!)
「美玲!」
市原に遅れて志田の下に着いたかれんの叫び声が聞こえてきた。
あきらめかけた美玲だったが、もう少し、と精一杯足を動かしながら背後を振り返ると、もう間近にそびえる霜柱があった。
そして美玲の足元に次はお前の足元だとでもいうように振動が伝わってきていて。
(あ……もうだめだ)
時が止まったかのように、美玲はうごけなくなってしまった。
『ミレイ!』
すると水皇が精霊石から現れ、美玲を抱き上げ浮上した。
美玲を捕らえようと突き上げてくる霜柱を縫うようにして避け、人魚の姿の水皇はヒレを動かし泳いでいく。
もう間も無く美玲も志田の元へ辿り着くという時だった。
霜柱が水皇を挟むように突き出してきて身動きが取れなくなってしまった。
反動で勢いよく雪原に投げ出された美玲は霜柱に捕らえられた水皇を見上げた。
『ミレイ、走って!』
そう言い終わるか終わらないかのうちに水皇は霜柱の冷気に冷やされ、氷に閉ざされてしまった。
「水皇!」
変わり果てた水皇の姿に、美玲はとにかく彼女の声の通り駆け出そうとした。
しかし……。
「あっ!」
全力で走った後だからか足の疲れはピークで、膝は上がらないし、恐怖からか体も思うように動かない。
美玲は雪に足をもつれさせ、顔面から雪に突っ込んだ。
ザリザリと凍った雪の粒が擦れて痛いが、そんなことを気にしている余裕はない。
振り向くともうそこに巨大な霜柱が迫っていて、美玲の下の雪にもヒビが入り霜が隆起し始めた。
「永倉!」
身を乗り出した市原の腕を志田が掴んだ。
「市原、危険だぞ!」
「水皇のいない永倉を放っておけないだろ!あっちは俺がなんとかする、志田はもうガード張っとけ!」
「おい、市原!」
「市原君……」
市原は志田の手を振り払うと,巨大な霜柱を前に動けなくなった美玲の下へと駆け出した。
「あのバカ、俺たちも一緒に行った方がいいだろうに……!」
そうすれば全員守ることかできる、とつぶやく志田にかれんは何かを考えるように視線を落とした。
「……まって、志田君も落ち着いて、私に考えがあるの」
市原を追い、駆け出そうとした志田の腕をかれんが掴んだ。
「考え?」
一瞬驚いた表情をした志田だったが、かれんの真剣な目に落ち着きをとりもどした。
「あの霜柱を、私たちで溶かそう」
「あんなでかいのを、俺たちで?」
驚く志田にかれんは頷く。
「火天と地天の力をもらったんだから、私たちの技ならきっとできると思うんだ」
そっちの方が美玲達を助けることができる確率が高い。
「……なるほど、確かにそうだな」
「志田くん、急ごう」
「ああ」
かれんと志田は武器を構えて集中しはじめた。