ネフティVSセレイル&ジルビア
凄まじい落雷の音にネフティは驚き、ジャニファに何かあったのかと振り向いた。
「ほら、よそ見してたら危ないよ!水槍連撃!」
「おっと……」
水を纏ったセレイルの槍をネフティは上体をのけぞらせてギリギリにかわし、砂を蹴り羽を動かして上空に飛び上がって彼女と距離を取る。
「毒射撃」
「岩石槌)
だが飛び上がったところで、今度はジルビアの放った矢が飛んできたので、ネフティは手持ちのロックハンマーに地精霊をまとい、それをなんとか叩き落とし不満げに唇を尖らせた。
「今思ったんだけどさ、二対一ってずるくないかい、セレー?」
「はあ?何を言っているんだい、アンタは」
「ランドラゴンを二十体も召喚しておいてそれはないのです!」
セレイルは呆れてため息をつき、ジルビアは青ざめた表情でネフティに言い返す。
先程ネフティが喚び出したランドラゴンたちはジルビアとセレイル率いる地、水部隊の騎士たちを一呑みにし、土塊となって彼らの自由を奪った。
彼らの命は無事だが、術者のネフティを倒さない限り救うことはできない。
だからなんとかネフティを倒そうとセレイルもジルビアも武器や魔法で攻撃をするのだが、ネフティはそれらを難なくかわしてしまう。
「君たちは騎士だけど、私は善良な一般妖精だよ?」
戦闘力の差は歴然だし、かわいそうだとはおもわないのか、という相変わらず攻撃を避けながら言うネフティの抗議の声に、攻撃の手を止めたセレイルとジルビアは顔を見合わせた。
「善良な一般妖精……ねえ」
確かにネフティは騎士ではないけれど、と槍を構え直してセレイルは苦笑した。
「でも“善良な一般妖精”は、ハネナシや人の子を匿ったりしないよ」
「セレさんの言う通りです!」
ウンウンとジルビアも頷いてセレイルの言葉を強く肯定する。
「だからあの子たちは……って、今の君たちには何を言ってもわからないんだよね……」
美玲たちと過ごした過去は二人にはなかったことになっている。
記憶の書を四天に改竄された今のままでは何を言っても無駄だとネフティは肩を落とした。
「それにアタシらの攻撃をアンタは余裕で避けているじゃないか。戦闘も難なくこなすアンタのどこが一般妖精なんだいま?」
「ランドラゴンと契約する時は戦って上下関係をはっきりさせないといけないからね〜」
「ネフティ様……やはりおっそろしい方なのです……」
ジルビアでもランドラゴン・マグニを従わせるので精一杯だったのに、さらにREX、ラプトルなど多種類のランドラゴンをネフティは従えている。
彼の戦闘力は騎士団並みか、それ以上のものだとも考えられるだろう。
「まあでも、こうなったら、私もさらに本気を出させてもらうよ。ここで君たちに負けるわけにはいかないからね」
そう言って、ネフティは砂地に降り立つと、ロックハンマーをたたきつけた。
「大地に眠るその背に帆を持つ竜よ、今こそ目覚め、我が手足となり敵を喰らえ、来れ、ランドラゴン・スピノ!」
すると、砂をシャワーの水のように滴らせながら背中に大きな帆を持つ巨大なランドラゴンが地中から現れた。
ネフティの何倍もある、滝の岩壁をゆうに越える大きさのランドラゴンは、威嚇するように甲高い鳴き声を上げた。
「ランドラゴン・スピノ……REXより大きく、獰猛だと言われるランドラゴン……やはりネフティ様には正気に戻っていただき、我々の部隊にランドラゴン召喚の講義をもらう一度開いていただきたいものです……!」
「全く、とんでもないモノを喚び出してくれたね……でもここは水精霊たちの庭だよ、好き勝手させるわけにはいかないね……ジル!」
「はいです、セレさん!」
「アレを一気に叩くよ!アタシをあの上まで飛ばしておくれ!」
「了解なのです!」
セレイルに敬礼をして、ジルビアは羽を動かし空高く飛び上がった。
「スピノ、油断するな」
ランドラゴン・スピノは首を伸ばしてジルビアをその大きな口におさめようとするが。
「おっと、そうはいかないのです!」
それを子供たちが振り回す虫取り網をかわすトンボのようにひらりとよけると、さらに上へ飛翔した。
そして弓に魔力を注ぎ、自分の背丈ほどの大きさにまで変化させ、魔力で作った矢を5本つがえると全身を使いキリリと弦を引いた。
「あれは……」
「この一撃に地部隊隊長の誇りをかけます!秘技・土塊隆起射撃!」
放たれた矢はランドラゴン・スピノの足元の砂浜へと突き刺さる。
すると、矢が刺さった場所の砂の下にある岩盤が地鳴りとともにものすごい速さで隆起して、ランドラゴン・スピノの動きを封じた。
隆起する岩の一つに飛び乗ったセレイルがそのスピードを利用して高く跳躍し、ランドラゴン・スピノの遥か上空から槍を構える。
「食らいな! 秘技・水槍大瀑布!」
水をまとった槍を構え、セレイルは青い光となりランドラゴン・スピノめがけ一直線に急降下した。
「スピノ?!」
青い光が砂浜に到達して一瞬ののち、ランドラゴン・スピノはずぶ濡れになり泥の塊になってしまった。
そして真っ二つに割れ、その巨体は瓦礫となり砂地に沈んだ。
「スピノが……」
「きゃー!セレさん、やりましたなのです!」
「ランドラゴン・スピノ、恐るるに足らず!さあネフティ、覚悟おし!」
ジルビアは歓声をあげて砂浜に降り立ち、セレイルは槍の刃を払い、切っ先をネフティに向た。
「ネフティ様?」
「ふふ……」
「どうしたんだい?負けたショックで頭でもおかしくなったのかい?」
「来い、ランドラゴン・モササ!」
ネフティがロックハンマーを砂浜に叩きつけると、大きな口が現れ、セレイルとジルビアをひとのみにした。
「どういうことだい?!」
「な、なんなんですのーっ?!」
セレイとジルビアをその口におさめたランドラゴン・モササは砂浜から這い出た。
魚のような前ヒレ、尾ヒレをくねらせ、砂地にその巨体を横たえる。
岩の牙に閉じ込められ、セレイルとジルビアはみうごきがとれない。
「スピノちゃんはまさか、オトリだったのです?!」
「囮というかプランB的な、万が一の備えだよ」
よくやった、とネフティはモササの目の脇あたりを撫でる。
モササは嬉しそうに目を細め、クゥクゥと甘えるような甲高い鳴き声をあげた。
その鳴き声も口の中にいるセレイルとジルビアには轟音であり、二人は耳を塞いでいる。
「すごい音だね……こんな土の牙、水精霊たちで泥にしてやるよ!」
セレイルが水精霊を呼び出したのと同時に。
「アイーグよ!かの者たちを深き眠りへと誘(誘え)え!」
ジャニファが唱える声がして、セレイルとジルビアはアイーグに飲み込まれ、深い眠りについた。
「無事か、ネフティ」
「うん、君のおかげだよ」
セレイルに水精霊を喚び出されていたら危なかった、とネフティはジャニファに礼を言うとモササを砂の海へと帰した。
「あとは……」
ネフティがベルナールと向き合うフレイズを見ると、ジャニファも同様にフレイズを見て頷く。
「あいつだな」
「あそこには多分私たちは入れないね。きっと足手まといになってしまう」
向き合う二人からは何者をも寄せ付けない殺気だった気配がひしひしと伝わってきていて、ネフティとジャニファはそれを見守るしかできないことを悟った。
「ベルは強い……フレイズ君、がんばれよ」
そして二人はフレイズの健闘を祈るのだった。