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夏休みに妖精の世界を救うことになりました!  作者: 小日向星海
蒼の渚(アスール・リートゥス)
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ジャニファVSグリル


美玲たちの乗ったシャボン玉めがけて飛ぶ、グリル率いる騎士団にジャニファはすぐに追いついた。


「行かせるものか!豪雷撃トニトルス・フリオーゾ!」


騎士団の背後から不意を打つ形でジャニファが唱えると太い何本もの稲妻が妖精の騎士たちを襲う。


降り注ぐ雷撃に妖精たちは飛行を続けることができず、砂浜に落下して行った。 


「相手はひとりだ、押し負けるな」


しかしグリルの命令ですぐに態勢を立て直し、宙に浮くジャニファめがけて隊列を組み再び飛び立つ。


「ひとりだと?馬鹿にしてもらっては困る」


ジャニファは片眉をピクリとあげ、それから身をかがめて腕を交差し、短剣を持つ右腕を突き上げ唱えた。


なげきの黒、慟哭どうこくの波よ、夜の闇と共に集え!さあ、行けアイーグたちよ!」


ジャニファが喚び出したアイーグが黒い波となり、彼女を包囲しようとする騎士たちを地上から襲う。


アイーグの光る目の色は青と黄色。水と地属性であり、火と風の力を持つ妖精たちの弱点でもある。


四元騎士団の騎士たちは四天の書き換えた記憶に踊らされているだけだ。傷付けず行動を止めるにはアイーグによって深く眠らせなければならない。


意表をつかれた騎士たちはすぐに魔法を使おうとしたがそれよりも早くアイーグにとらえられて。


アイーグはまるで絡みつく蔦のように騎士たちに絡みつき、彼らを深い眠りの底に落とした。


「ふん、手応えのないことだ……」


しかしその中でただ一人、力ずくでアイーグの拘束から逃れた者がいた。


「うぉらぁぁあああっ!灼熱拳撃ヒート・ナックル!!」


「なんだと?!」


暑苦しい叫びと共に、吹き上がる炎の柱と弾け飛ぶアイーグの断片。


勝負は決したと思っていたジャニファは驚きに目を見張った。


そこには肩で息をする、赤い羽飾りの鎧をつけた妖精ーー四元騎士団火部隊隊長のグリルが居た。


グリルは彼の武器であるナックルについたアイーグの断片を振り払うと、その拳をジャニファに向けた。


「ジャニファと言ったな。貴様は俺の拳で倒す!」


「面白い、そうで無くてはな。雷斬波トニトルス・グラディウス!」


ジャニファは短剣に雷を纏わせ、刀身を伸ばす。


そして上段に構えると、先手必勝とばかりに、自分に向かってくるグリルめがけて思い切り振り下ろした。


短剣から放たれた、薄紫の雷をまとう三日月型の斬撃がグリルに向かう。


そのスピードは雷のように速くて、誰にも避けられない。


そのはずだったのだが。


「ぅおらぁあああっ!灼熱拳撃ヒート・ナックル 連撃ラッシュ連撃ラッシュラアアァアアッシュ!」


ジャニファの想定外だったのは、グリルがそれを避けずに拳で真正面から受け止め、しかも炎の拳を打ち込み消し去ってしまったことだ。


「な……っ、バカな」


「俺は火部隊を預かる隊長グリルだ。この程度の雷で俺の拳は止められん!」


「アイーグ!」


ジャニファは再び水属性のアイーグを喚び出し、グリルへ仕向けた。


彼の足元から現れたアイーグはあっという間に彼を飲み込んだかに見えたが。


火炎壁フレイム・ウォール!」


今度も炎の壁に膨らんだアイーグはぱんっと爆けて消え去ってしまった。


「水に火が勝る……だと?」


「火だろうが水だろうが関係ない!水が炎を消そうとするならば、それを上回る熱で逆に消し去るのみよ!さあ……今度はこちらからいくぞ!」


砂浜を蹴り、向かってくるグリルへの反応が動揺のためか遅れたジャニファは防戦一方で、至近距離から放たれる拳撃を受け流したり避けるので精一杯だ。


(なんとか距離をとらねば……)


しかしグリルの素早く重い攻撃の手は緩むことなく、ジャニファは反撃の隙を見つけられない。


巨大アイーグを喚び出し動きを止められたら紫雷電ヴィオレット・トニトールスより強い呪文を使えるかもしれないが、そもそもアイーグ召喚する暇がないのだ。


灼熱蹴撃ヒート・アクセル!」


それに、グリルが放つのは拳撃だけではなかった。


「ぐっ!」


炎を纏ったグリルの蹴りがジャニファの首筋を目掛けて放たれる。


今まで打ってくるのが拳撃だけだったので、完全に油断していたジャニファはとっさに籠手を纏った腕でガードしたが、衝撃に耐えきれずそのまま砂地に落下してしまった。


柔らかな砂のおかげでダメージは少ないが、もっていた短剣はジャニファと離れた位置にころがってしまった。


追いかけて降り立ったグリルが短剣を拾いあげる。


ジャニファはなんとか立ち上がったものの、籠手越しから伝わってきた重い蹴りに、腕はまだビリビリとしびれている。


しびれる肘をさすりながら手を振り、手を握ったり開いたりして感覚を戻そうとするが、

思うように動かせない。


「っくそ……」


「勝負ありだな。さあ、ハネナシのジャニファ、観念しろ」 


「誰が……!」


火精霊サラマンダー


グリルが火精霊サラマンダーを召喚する。


エラのあたりから炎を吹き出す赤いトカゲは、火の粉を吐きながら二股に分かれた舌をチロチロ出し入れしている。


「これで終わりだ!火精霊輪サラマンダー・リング!」


火精霊を拳に纏うまでのその一瞬の隙を、ジャニファは見逃さなかった。


素早くかがみ、砂を一掴みすると距離を詰めグリルの顔を目掛けて振りまく。


「くっ、卑怯な!」


「卑怯上等!」


砂から目を庇おうとして、グリルの呪文が中断され火精霊サラマンダーは消える。


そして細かい砂を受け目を擦るグリルに、ジャニファは短剣を持つグリルの右手を思いきり蹴り上げた。


グリルの右腕は天に突き上げられ、今にも沈みそうな夕陽の光を鈍く反射させる。


豪雷撃トニトルス・フリオーゾ!!」


「ぐあああああぁぁぁあっ!」


ジャニファが唱え、複数の太い雷が避雷針のようになった短剣目掛けて降り注いだ。


紫の閃光がグリルを包む。

グリルは雷の集中攻撃を受け、黒焦げになりながらもまだ膝をつかずにいる。


「ジャニ……ファ……!」


虚な目をしながらも立ち続けているのは、気合いと、彼の火部隊隊長としてのプライドなのかもしれない。


「夜の波にのまれて眠るがいい」


ジャニファはグリルが落とした短剣を拾い、それを地面に突き刺して静かに唱えた。


とぷんという音を立ててアイーグに飲み込まれたグリルは、ようやく深い眠りにいざなわれたのだった。

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