訣別
美玲たちを見送ったフレイズは無言で剣を抜くと、根本から泡花を切り落とした。
「これで、あなた方は彼女たちを追うことはできません」
フレイズが剣を鞘に収め、静かに言う。
その後ろでは切り落とされた泡花がズシンと大きな音を立てて倒れ、やわらかな砂浜に埋もれている。
悲凍原へはあの泡がないと妖精の国からはいけない。
ここでベルナールたちを食い止めればもう美玲たちは追われないのだ。
「まさか花を壊すとはなあ。そこまでして人の子を守る必要なんかあるのか?」
フレイズたちはジャニファの力や風の道を通って精霊界へ行くことができるから、泡花が無くとも困らない。
「それに、お前たちたった三人で俺たち騎士団に敵うと思ってるのか?全く、舐められたもんだな」
「三人じゃないよ。私にはランドラゴンたちがいるからね」
ネフティが小さく唱えて指を鳴らすと、滝の岩壁の上、砂浜の下から複数のランドラゴンたちが現れた。
「REX、コァトル、ベクティ、ラプトル……しかもこんなにですか?!以前も見せていただきましたが、ランドラゴンマスターとはいえここまで喚び出せるものですか?!」
ランドラゴンにも明るいジルビア率いる地部隊の騎士たちは驚きざわめく。
一種類につき五体つまり二十体のランドラゴンが召喚され、騎士団を威嚇する。
「お前たちがいつも相手をしているアイーグだっているぞ」
「俺の強化したシルフたちもいます」
地の底から這うようにうねり現れたアイーグと、シルフも周りを囲む騎士団と睨み合う。
話しているうちにもみるみる小さくなるシャボン玉を見上げてベルナールが舌打ちをした。
「まあいい、俺たちには羽根がある。あれを追えばいいだけのことだ。グリル、俺の部隊を貸す。風と火を率いて行き、あれを落とせ」
「承知!各隊、俺様に続け!!」
グリルは風部隊と火部隊を率い美玲たちのシャボン玉目掛けて飛び立っていく。
「そうはさせん!」
ジャニファもまた、グリルとそれに従う騎士団を追うために砂浜を蹴り飛び立つ。
「セレイルとジルビアの部隊はネフティを捕らえろ。できるだけ怪我させるなよ」
「わかったよ」
「承知なのです!」
セレイルとジルビアの部隊はネフティを取り囲む。
「ネフティ様、覚悟するのです」
キリリと矢を番え、鏃の先端をネフティに向けてジルビアが言う。
「悪いけどアタシも本気出させてもらうよ」
セレイルは背より高い槍の柄をトンと砂浜につけ、それから剣先をネフティへむけた。
「戦闘は専門じゃないけど、私だってランドラゴンマスターの端くれさ。簡単には負けないからね」
ランドラゴンたちはネフティを守るように前へ出る。
「じゃあ俺は、命令違反をした部下の根性を叩き直すとしますか」
よっこらせと大剣を担ぎ直してベルナールはフレイズの前に立った。
足元の砂がふわりと風に運ばれていく。
「なぁ、フレイズよぉ」
「お手柔らかに願います」
そう言うと、フレイズもまた細身の剣を再び鞘から抜き、構えた。