名も知らぬ場所
決意を新たにした美玲たちはふと気づいた。
風天に大切なことを聞いていなかったということに。
「それで、ミアラはどこにいるんですか?」
「そうそう、四季の庭にもいなかったんだよな」
美玲の質問に、市原も首を傾げ、六人は一斉に風天へと視線を向ける。
美玲たちは彼女を探していたら四天の力を託すためにここへ連れてこられた。
あれだけのことを知っている風天なのだから、彼はきっとミアラの居場所を知っているはずだ。
風天もハッとした様子で居場所を伝えるのを忘れていたようだった。
彼はコホンと咳払いを一つして、扇を口に当てた。
『彼女は今、精霊界と妖精界の狭間にある、悲凍原という場所にいる』
「ブラウ・ガルテン……?そんな場所が……」
聞いたことがない、とネフティとジャニファは顔を見合わせ、首を傾げた。
二人のその様子に風天は「だろうね」と短く頷いた。
『あそこは三界の狭間だからね。僕たち四天と精霊王くらいしか知らないと思うよ。』
そんな場所にいたら、妖精の国のどこを探したって見つからないはずだ。
『元は日照原と言うところで、陽の光が常に差し込む、暖かな場所だった。しかしミアラが氷に閉ざされたのち、精霊王は彼女の眠る氷の柱をそこへ移した。精霊王サシェは、彼女を包む氷が少しでも溶けるようにと考えたのだろう』
思いもよらない精霊王の健気な気持ちを知り、ロマンチストのかれんは頬を染めうっとりとため息を漏らした。
『でもあの場所は……ミアラを閉じ込めた氷が放つ冷気によって姿が変わってしまった。暖かな野原は雪と氷に閉ざされた凍える場所に』
その冷気は妖精界の四季の庭にも及び、シラギリの森は霧が深く立ち込めるようになったのだと言う。
氷の柱が消えさえすれば、四季の庭は美玲が見た夢と同じ、草花の咲き誇る場所になるだろうと風天は言う。
「では私が道を開き今すぐそこへ……」
『そうか、君の持つ羽根は月光の精霊のものか……だが君は知らない場所へも道を開けるのかい?」
「それは……無理です……私と縁を繋いだものがいれば気配を辿ることはできますが……」
残念ながらジャニファはミアラと面識はない。
ジャニファは悔しそうに俯き、唇を噛んだ。
「それなら、そこにはどうやって?」
妖精の誰も名前も知らないその場所への行き先は、このにいる風天しか知らない。
ネフティの問いかけに風天は頷き、口を開いた。
『水精霊たちの里である、蒼の渚に咲く泡花から出る泡が、悲凍原へと運んでくれるだろう。僕が風の道を開くから、そこを通ればすぐ蒼の(・)渚だ』
風天が扇を一振りすると、ここにきた時と同じような小さなブラックホールが現れた。
風天に話を聞けるのはもう最後かもしれない。
美玲はそう感じて、彼にどうしても知りたかったことを尋ねた。
「風天、なんでミアラの夢をあたしが……?」
『君は水皇にえらばれた。水の巫女であるミアラと水の精霊たちは特別な結びつきがある。君は彼女の記憶を夢で見たのかもしれないね』
「水皇の……」
その思いもよらない答えに美玲は武器の先に付いている精霊石をそっとなぞった。
水皇からのミアラを助けて欲しいという切なる願いを感じた美玲は、ぎゅっとその柄をにぎった。
『もし三界に別れていなければ、君たちはきっと、四天の巫女に選ばれただろう』
それくらい美玲たちは大きな力を持つ特別な存在なんだと、風天は言った。
『水精霊たちだけじゃない。全ての精霊が君たちの力になってくれるはずさ』
きっと風天が言いたいのは自信を持て、という事なのだろう。
三つの世界を救うという大ごとに、先程したばかりの決意はもう揺らいでしまいそうだったから、それを風天は感じ取ったのだろう。
「そうだ。妖精の代表として、我々もお前たちを守ると約束する」
「私たちも三界に住むものの一人だ。君達への協力は惜しまないよ』
ジャニファとネフティの力強い言葉に、四人の不安は小さくなっていく。
『さて、もう僕には時間がない……君たち……頼んだよ』
そして風天の姿は溶けるように消え、どこからか漂い飛んできた風精霊石のブレスレットが美玲の手のひらにおさまった。
「行こう。ミアラのいるところ……悲凍原に」
風天がひらいた風の道をキッとにらみ、美玲たちは風の道へ飛び込んだ。
お読みくださりありがとうございます!
笹です。
次の話から新章に入ります。
更新まで少しお時間いただくかもしれません。
(すぐできるように改稿頑張ります)
さて、次章は……。
風の道を通り蒼の(アスール・)渚へたどり着いた美玲たち。
泡花の泡に乗ろうとしますが、その時、思いもよらない出来事に遭遇してしまいます。
はたして美玲たちは悲凍原へ行けるのか。
是非お楽しみに!