魔法の使い方
角笛が鳴らされ、騎士たちは武器をそれぞれ構え、戦闘態勢を取る。
「ミレイ、ナイトは俺の後ろに」
剣を抜いたフレイズが二人の前に出て、辺りを警戒する。
隊列の前の方ではすでに戦闘が始まっているのか、武器の音とアイーグの鳴き声が聞こえる。
「上からも来るぞ!」
誰かの声に上を見ると、木の上から赤い目を光らせるアイーグがボトボトと落ちてきた。
「危ない!」
フレイズは剣を薙ぎ、飛びかかってきたアイーグを斬り、二人を押した。
「わっ!」
躓きながら進むと、先ほどまで二人がいた場所に、目を赤く光らせたアイーグが三体落ちていて、逆さまになって手足をジタバタさせている。
それらをフレイズが難なく消し去る。
「俺が道を作る。ついてこい!」
「二人とも走って!」
促されるがまま、美玲と市原は大剣を振りながらアイーグたちを蹴散らすベルナールを追って走り出す。
その背後からは、フレイズが両脇から迫るアイーグを風の魔法で消滅させながら付いてくる。
先頭に近づくにつれ、アイーグの数がどんどん増えていく。
通りすぎるときにちらりと見たが、騎士たちもアイーグの数が多く、苦戦しているものがほとんどだ。
「あっ!」
履き慣れていないブーツで走っていたため、美玲は派手に転んでしまった。
勢いがあったので膝を擦りむいて血が出てしまっているが、構っている場合ではない。
「永倉!」
市原が美玲の手を引っ張り、立たせる。そしてそのまま手を引いて二人は走り続けた。
「ベル!」
見ると前方から槍を薙ぎながらアイーグを斬り伏せつつ、セレイルが駆けてきた。
「ベル!一気に行くよ」
「おうよ!」
二人は息つく間もなく美玲と市原を守るように背中合わせに立ち、視線で合図するとセレイルは両手を天に、ベルナールは地面に向けた。
「水精乱舞!」
「風精冷陣!」
セレイルの呪文に応じてベルナールも唱えると、二人の周囲に風が巻き起こりはじめた。
風はセレイルの呼び出した水精霊が放つ多くの水球を巻き上げた。
そしてさらにいびつな形になったそれを凍らせ、鋭い鏃に変化させる。
「くらいな、氷円撃波!」
鋭い氷の刃となった水滴は、セレイルたちの周囲のアイーグに襲いかかり、次々と消滅させていく。
「すごい…!」
他の騎士たちに襲いかかっていたアイーグたちも全て氷の刃に消えた。
「これが、魔法なんだね…」
美玲の言葉に市原が繋いている手を
ぎゅっと握った。
そこでようやく手をつないだままということに気づき、二人は慌てて手を離した。
「あ、ありがとう…市原…助かったよ…」
「お、おう…」
つないでいた手がなんだか熱い気がしてじっと見つめた。
男子と手をつなぐなんて初めてのことでなんだかすごく恥ずかしい。
「ちょいと、こんなところでもたもたしてらんないからね。さ、いくよ!」
セレイルの言葉にハッと顔を上げる。周囲を見渡すと濃い霧の向こうにはまだ、赤や黄色に光るアイーグの瞳が見える。
「各隊は速やかに隊列を再編成し、隊列を組め。この場をすぐに離れるよ!」
セレイルの怒号に応じて鳴らされる角笛を聞き、騎士たちは走りながら隊列を整えていく。
「回復と後ろはベル、頼んだよ!」
「任せとけ!風精霊行進」
セレイルの言葉を受け、逆方向に走りながらベルナールが唱えると、楽器を持った半透明の風精霊たちが行進しながら演奏してベルナールについていく。
彼らが通り過ぎるとき、柔らかな風とともにかすかな音楽が聞こえてきた。
「あ…」
不思議なことに風が触れた擦り傷が綺麗に治っていた。
しかも、もう走れない、と思っていた美玲だが、風精霊の奏でる音楽を聴くとなんだかまだ走れそうな気がしてきたのだ。
運動会やマラソンが苦手な美玲だが、アイーグから離れたい、その一心でセレイルの背を追った。