創られた妖精
だが自分に向けられた困惑の表情を気にせず、風天は言葉を続けた。
『精霊界のことは風精霊に聞けばわかる。妖精の国のことも大体ね。でも、妖精の国にくらす妖精たちのことは、内に入らないと本当のところが見えてこないから』
水天が妖精たちにかけた呪いのことやその影響を知りたかったのだと言う。
「それで、あなたが創った妖精とは誰なのです?」
美玲たちはその言葉に首を傾げネフティを見た。
答えは聞かなくてもわかるのに、と。
けれど、ネフティは確証が欲しくて風天に尋ねた。
『君たちもよく知っている、松の妖精フレイズさ』
その気持ちを汲んでか、美玲たちの予想する答えに一度深く頷いてから風天は口をひらいた。
「でも……妖精を創るだなんて、そんなことができるのですか?」
信じられない、というジャニファに風天は「出来るよ」と頷いた。
『間も無く妖精が生まれそうな松の幼木に、僕、風天の力を注ぎ込み、彼を生み出した。僕と彼が似ているのは、そのせいだね』
あの子は自分の分身みたいなものだと、そう言って風天はちらりと美玲に視線を合わせた。
フレイズと同じ緑の瞳と目が合い、美玲の心臓がとくんと跳ねる。
「ベルが四元騎士団に入ってきた彼のことを他の妖精とは何か違う、と興奮気味に言っていたけど……そう言うことだったんだね」
「そういえばこっちに戻ってきたとき、フレイズは地王のちからであ俺が出した水晶壁も破ったもんな」
ちなみに風精霊の洞窟の風精霊たちは風の要素が濃い場所だから地王の技をやぶることができたのだという。
『そのことは風精霊たちから聞いているよ。でも、あの子が君たちを攻撃するとは思えないのだけれど……あの子は妖精だけど、半分は僕と同じ天でもあるから、記憶の書の影響もうけないんだ』
志田の言葉に風天は首を傾げて表情を固くした。
「本当ですか……!?でもフレイズは、あたしたちのことを知らないって、それで……」
「……美玲」
剣を向けられた時のことを思い出して言葉に詰まる。
かれんはそんな美玲を落ち着かせるように、震える背中をさすった。
美玲は大きく深呼吸して、かれんに大丈夫だと伝えるが、それは自分自身に言い聞かせるように出た言葉でもある。
ざわつく心が収まるように、美玲は胸に手を当てる。
風天は美玲が落ち着いたのを見て言葉を続けた。
『水天は僕の力を使って邪魔になった君たち四人を元の世界に帰そうとしていた。それを察知した僕は、フレイズにここの風精霊石を人の子の誰かに渡すよう指示したんだ。いずれ君たちを再び呼び戻すために』
元の世界から妖精の国に戻る時、美玲のブレスレットが強い光を放ったのは風天が呼んだからなのだという。
『そうか、やはり、フレイズは君を選んだんだね。あの子にとって、特別な君に……』
「あたしが……特別?」
攻撃されたのに信じられない、と拳を握る美玲に風天は柔らかな笑みで頷いた。
その優しい表情がフレイズとそっくりで、美玲は泣きたくなった。
『知っての通り、ここの植物と君たちの世界の植物は繋がっている。まだ幼い頃、彼は言っていたよ。人の世界で、ある女の子がいつも自分のところで遊んでいる、と。いつか会えたらいいな、とそれはそれはかわいい顔で』
ゾウ公園に、松の木が植樹された時から美玲は遊びに行っていた。
桜の木も公園にはあったから、この松という木にはどんな花が咲くのかな、と訪れるたびワクワクしていたのを思い出した。
桜のような花は見れなかったが、かわりに秋になると松ぼっくりがたくさん落ちてきてそれを拾うのが楽しかった。
『だから君を……君たちに剣を向けるなんて多分何か事情があったのかもしれない。どうかあの子を信じてあげてほしい』
「そういえば確かに、あの時ベルナールさんたちもいたし、記憶がない振りをしなきゃいけなかったかもしれないな」
志田はうーんと顎に手を当てながら考える素振りをして言った。
「我々と戦う振りをして、騎士団のあの囲みからお前たちを逃したのだとも考えられなくもないが……しかし、あの殺気を含んだ眼差しと剣も演技だとしたら、あの松ヤニ野郎はとんでもない奴だ」
剣を交えたジャニファが忌々しそうに言った。
「でもそれなら一緒に逃げてくれても……」
よかったのに、と美玲の口からポツリと出た言葉に。
『すまないね、あの子には記憶をかきかえられた妖精たちの様子を報告するようにも言ってあるから、君たちと行くことは現時点では不可能だ』
風天は申し訳なさそうに首を振った。