風天(ヴェンティ)の招待
風精霊たちは風精霊石を回収すると、再び暴風を巻き起こし、風の刃を浴びせてきた。
それらは風主の召喚時に発生した竜巻の壁に当たって消えたが、怒りの収まらない風精霊たちの様子に風主も戸惑っているようだ。
「ネフティさん、ちゃんと謝ってください!」
「はい!勝手に採掘してごめんなさい!」
かれんにいわれて弾かれたように頭を下げたネフティだが、その言葉とは裏腹に、ものすごく名残惜しそうに風精霊石を見ている。
「気持ちはわかるが、顔と行動が一致してないぞ……」
ジャニファがそんなネフティの様子に呆れてため息をついた。
「市原、風主は?」
「だめだ、こいつら風主の言うこと聞かなくて、風主も困ってる」
途方に暮れたような風主を見上げて美玲に市原は首を振った。
『やめよ』
その時、優しく低い男性の声が風精霊洞穴に響いた。
『彼女たちは僕が呼んだーーー客人だ』
すると、怒りに燃えていた風精霊たちはその言葉にハッとしたような顔をして、溶けるように姿を消した。
風主もどこかにお辞儀をして、そのまま溶けるように消えて行った。
「助かった……」
美玲たちがへたへたと座り込んで息を吐いていると、どこからかふわふわと美玲のブレスレットが漂ってきた。
そして突然それが強い光を放ち、やがて光が収まると、全員洞窟から見知らぬ場所に移動していた。
周りを囲むのはゴツゴツした岩壁ではなく、巨大な風精霊石の柱がいくつも並びたつ、まるでお城のようなところだ。
そして、目の前には一人の若い男性が玉座にゆったりと座っている。
「フレイズ……?」
雰囲気は違うが、結い上げた金の髪に、緑の瞳。フレイズより少し大人びているが、優しげな面差しがよく似ている。
美玲の問いかけに、男性はにっこりと微笑むとゆっくり首を横に振った。
『ここはシルフ・カスル。そして僕は風天。風の根源とも呼ばれる者だ』
精霊たち頭の中に声が響く。
低く、落ち着きゆったりとしたその口調はその場の緊張を和らげてくれる。
そこで、美玲は風天をじっと眺めた。
よく見れば、フレイズとは容姿が違うのは一目瞭然だった。
耳は鳥の翼のようになって羽毛に覆われているし、緑の扇をもつ彼の両腕は翼そのもので、その翼を覆っているのは白い羽が毛先に行くにつれ黄色から緑へ変わっている、とても美しい羽毛だ。
そして彼のまとう純白のローブには、金糸で縫われた紋様が所々に散りばめられている。
「風天?しかし、水天以外の三天は、水天によってトルトの中で統合され消えたのでは?」
驚くジャニファの問いかけに、風天は柔らかな笑みを浮かべた。
それは少し、諦めと寂しさの混ざる表情だった。