霧深い森で
シラギリの森の奥に進むにつれ、霧が深くなり視界が悪くなった。
「この霧で飛行するのは危険だ。ここからは歩いて行くよ」
それまで飛行していた妖精たちはセレイルの号令で地上に降りた。
グレッグとレイブンも危険なので召喚玉という宝石の中に入れられた。
静かな森の中に、ガチャガチャという騎士たちの甲冑が触れ合う音が響いている。
「警戒を怠るな」
各隊の隊長がそれぞれの部隊に声をかける。
四方八方からの襲撃にも対応できるように、美玲は隊列の中央にベルナールとフレイズとともにいた。
隊を率いるセレイルは先頭についている。
「後どれくらい歩くの?」
もう足が棒の様だった。歩いても歩いても周囲は霧で、どれくらい歩いたのか、どれくらい歩けばいいのか終わりが見えずにただ辛いだけだった。
「疲れた?」
フレイズの言葉に慌てて首を振る。迷惑をかけたくない。疲れているのはきっと美玲だけではないし、わがままだと思われたくないからだ。
「この視界が悪い中休憩を取ることはできないからなぁ、すまんが嬢ちゃん、頑張ってくれ」
市原の脇についているベルナールがすまなそうに言う。
周囲は木の影がぼんやりと見えるだけで、前に進んでいるのか、曲がっているのかもわからない。
均等に明かりが灯る鬼灯草という植物を持って飛行する騎士を目印に歩き続けていた。
「なんか寒くなってきたな…」
市原はそう呟き、羽織っていたマントの前を合わせた。
その時、布を割く様な、のぶとい男の悲鳴の様な、そう、一言で言うと気持ちの悪い声が聞こえた。
「何!?」
その不気味な声に市原は辺りを見回し、美玲はおもわず耳を塞ぐ。
それは二度と聞きたくないと思っていた、アイーグの鳴き声だった。
「敵襲ーーーっ!」
危機を知らせる誰かの声が森に響いた。