四季の庭
久しぶりの更新です。
シラギリの森の奥にある四季の庭を目指すことになった美玲たち。
ジャニファの妖精の国と精霊の国を自由に行き来できる力を使いシラギリの森の奥に出る。
はたして、四季の庭は見つかるのでしょうか……?
相変わらず深い霧が立ち込めているシラギリの森に、ジャニファ、ネフティと共に美玲たち四人は再びやってきた。
四人の服はジャニファが作ってくれたものに変わっている。
新しいものといっても、もともと着ていたものと見た目はほとんど変わらないが、ジャニファがいうには四天との戦いに備え、精霊石のかけらで作ったビーズなどを縫い付け強度をあげたらしい。
新しい服に気持ちが少し浮かれる四人が訪れたそこは、以前ユンリルが金木犀の檻で眠っていた場所であり、美玲と市原がバライダルに操られていたかれんと志田と初めて戦った場所だ。
ところどころ草木に焦げている場所があるのはその時の跡だろう。
ほんの少し前のことのはずなのに、もうずいぶん昔のことのように感じる。
美玲はそんな複雑な気分になりながら金木犀の檻があった場所を見上げた。
今は檻がないそこには、卵型の空洞ができているが、その下は草が生い茂っていて、道などどこにもない。
「すすめない……」
ぽそりと呟いた美玲の言葉に、隣で同じように空洞を見上げていたネフティも同意して首を傾げた。
「わたしもここへくる前に調べたけど、四季の庭はシラギリの森の奥にあるって言い伝えなんだよね。でも……行き止まりだねえ」
ネフティは頭をかき、そして気を取り直すように大きく息を吐いてから、地精霊を召喚して彼らに探索を指示した。
小さなキノコの姿をした精霊たちは一斉に散らばり、ネフティたちが通れる道はないかと探し始める。
「道に迷ったら地精霊に聞けっていうからね」
妖精の国のことわざだろうか、とネフティの言葉に美玲は首を傾げた。
「あ、それきいたことある。紅の泉でジルビアさんも前に言ってたよ」
授業で意見を言う時のように手を挙げたかれんの声には寂しさが混ざっていた。
今は敵になってしまっているけれど、四天を倒せばまた以前のようにもどれるはずだ、きっと。
それには一刻も早く四季の庭への道をさがさなくてはならない。
感傷に浸りかけていた美玲たちもそれぞれ藪をかき分けて道はないかとあちこち探すが、やはりなかなか四季の庭へ続く道は見つからない。
「ネフティ、地精霊が呼んでいるぞ」
しばらくして、美玲たちの反対側にいるジャニファが大きな声でネフティを呼んだ。
彼女の足元では地精霊たちが一箇所に集まり黄色い光を放ちながら飛び跳ねているのが遠目にもわかる。
ネフティは一飛びでそこへ向かい、美玲たちもその後を追った。
「ここかい?」
ネフティが訊ねると地精霊たちはこくこくとうなずいた。
そこは美玲とネフティが、この先にはもう道が無いと思った場所で、ユンリルが眠っていた金木犀の檻があった場所の真下。
蔦が絡み合い藪が繁っていて、とてもじゃないが道など見当たらない。
「ここ、本当に道なんてあるのか?」
市原が疑問を口にするが、地精霊たちはしきりに飛び跳ねている。
「よし、わたしが見てくるから、君たちはジャニファとここで待っていて」
ただならぬ地精霊たちの様子に、ネフティがナイフを手にガサガサと音を立てながら藪をかき分け奥へと進んでいく。
やがて姿が見えなくなったネフティだが、その背と同じくらいの藪の刃先がガサガサゆれているので、彼がどこにいるかは大体わかった。
「あったあった、急いで向かおう」
しばらくして、藪をかき分け戻ってきたネフティはジャニファと四人に手招きをした。
「まあ道といっても歩きやすい道ではないけどね。葉で手や肌を切らないように気をつけてね」
ネフティが藪を切り開いてくれてはいたが、そこ以外は美玲たち小学生四人の背丈よりも高い草木に覆われている。
四人がネフティの後についていくと、たしかに彼のいう通り開けた場所にでた。
しかし。
「夢と全然ちがう……」
その場所を見て、美玲は呆然として首を振った。
グラウンドより少し広いくらいのそこは、夢で見たように花は咲いておらず、日の当たらない薄暗く肌寒い、霞みがかった寂しい場所だった。
四季の庭というより、冬の庭といった方がしっくりくる。
青々とした草花の姿は見る影もなく、どれも寒さにくすんだ暗い葉色をしていて。
それらはまるで眠りについているようにも見える。
そんな草花の姿に、美玲にはバライダルの城で見た、眠り続ける妖精たちの姿が重なって見え、胸がキュッと締め付けられた。
「永倉、ここが四季の庭なのか?」
市原が辺りを見回しながら美玲に駆け寄り、たずねた。
「夢で見たときはここが一面の花畑だったんだけど今は……」
「花が全くないね……一輪も」
隣に立つかれんの呟きに美玲がうなずいた。
「ミアラだっけ? その氷にとじこめられた女の人もいないよな」
志田があごに手を当てて考え込むような仕草をしながら言った。
「地精霊たちもこのほかに道はないって言っているけど……」
「美玲……」
リルが金木犀の檻で眠っていた場所であり、美玲と市原がバライダルに操られていたかれんと志田と初めて戦った場所だ。
ところどころ草木に焦げている場所があるのはその時の跡だろう。
ほんの少し前のことのはずなのに、もうずいぶん昔のことのように感じる。
美玲はそんな複雑な気分になりながら金木犀の檻があった場所を見上げた。
今は檻がないそこには、卵型の空洞ができているが、その下は草が生い茂っていて、道などどこにもない。
「すすめない……」
お手上げのようなネフティの言葉にかれんが不安そうに美玲を見る。
頼りになるのは美玲の記憶だけなのだ。
「うん……もう少し思い出してみる」
もしここが四季の庭であったのならば。
そう考えながら美玲はひとりで歩きだした。
花もない、薄く白いもやの立ち込める場所を、かつては花にあふれていたであろう夢の記憶をたどりながら。
やがて美玲はミアラと精霊王が座っていた場所はここだろうと思い足を止めた。
「あっ……!」
美玲の予想は的中した。
そこにはクッタリとその重さで身を横たえる丈の長い草に覆われた切り株が見えた。
だいぶ年季のある、くすんだ茶色の切り株だ。
この場所であの二人は結婚の誓いをかわし、キスを……。
「永倉、顔赤くないか?どうした」
「ーーーな、なんでもない!」
小学生には刺激が強い場面を思い出して両頬があつくなった美玲は市原の問いかけに慌てて首をふった。
そして予感が確信に変わり、思わずため息が漏れた。
やはりこの場所は、幸せに満ちた二人から幸福が奪い去られたあの場所なのだ。