4の3魂!
「はぁ……」
バライダルの館は広く、部屋を出た美玲は迷っていた。風に当たりたいと思っていたのだが、外に続く場所に出る様子が全くなく、かれんたちのところに戻ろうにも戻れずにいた。
(足が痛い……)
歩き疲れた美玲はその場に座り込み、膝を抱えた。
風の吹く方向を辿ってきて、たどり着いた場所では天井部が吹き抜けになっており、夜空が見える。
下には四角く区切られた場所に水が張られており、鏡のようなそこは宝石のような星が瞬く夜空を写している。
壁際には様々な大きさと色の水晶郡が所々にあり、それらは月の光を反射してきらめいている。
だがそれらの風景を綺麗だと楽しむ余裕は今の美玲にはない。
再び妖精の国に来てからたくさんのことが起き過ぎて、美玲には受け止めきれていなかった。
フレイズや隊長たちは美玲たちのことを忘れていたし、その上攻撃もしてきた。
四天の仕業で記憶を失ったのは仕方のないこととはいえ、親しい人たちに刃を向けられたのは大きなショックだった。
美玲は近くにあった小さな水晶の先端に触れてみた。指をつく尖ったその先はチクリとした痛みを与え、夢ではないと伝えてくる。
夢ならーーー悪夢なら目覚めれば終わるのに。
そう、夢。美玲は自分が見た夢の内容が以前、精霊王の身に起きた出来事と同じであることも驚きだった。
「あたし、なんであんな夢を……」
今でもはっきり思い出せる幸せそうな二人の姿に胸が苦しくなる。
かれんや市原、志田はそんな夢を見なかったというし、どうして自分だけがあの夢を見たのだろうかと不思議でならない。
もしあれは本当にただの夢で、何の意味もなかったらと思うといたたまれない。
バライダルの話ではその昔に実際にあったことらしいが、これから四季の庭を目指すのも無駄になるのではと思うと余計なことを言ったかもしれないと憂鬱になるのだ。
「美玲ー!」
「永倉ーどこだー?」
大きく息を吐いて膝に顔を埋めていたら、自分を探す声がして顔を上げた。見ると、美玲が入った方とは逆からかれんたちがやってきた。
「もー、探したよ美玲。こんなところにいた」
「なかなか戻らないし外にもいないから焦ったぞ」
「ごめん、迷っちゃって」
「外に出るならきた道を戻ればいいだけなのにどうして迷うんだ?」
心配してくれているのがわかるかれんと志田とは違い市原がアホみたいな顔で言うので美玲はムッとして睨みつけた。
「ちょっと色々考え事してたの!」
「考え事?」
市原に強く返して美玲はハッとして口を押さえた。これは何を考えていたか言わなきゃいけないパターンか、と。
「何か悩んでいたの?私、話聞くよ。男子いない方がいいならどこかに行ってもらうし」
「えー?ひでえな久瀬。俺たち仲間なのに」
「市原、お前ちょっと黙っとけ」
ややこしくなる、と志田がポンポンと市原の肩を叩きなだめる。
「いや、そんな深刻なことじゃないし……ただあたしが見た夢が違ってたらみんな困るよなーって思ってただけで……」
「夢……?ああ、精霊王とミアラって人の夢ね」
かれんの言葉に美玲は頷く。
「女王様もポワンたちにも時間があまりないみたいだし、もしあれがただの夢で何の意味もなかったらとおもうと……怖くて」
フレイズたちの記憶も元に戻らないかもしれない。そう思うといたたまれなかった。
だが返ってきたのは「何だそりゃ」という市原の予想外の言葉だった。
「違っててもいいじゃねえか。そしたらまた手がかりを探せばいいだけだろ」
気にするだけ無駄だろ、と市原は笑った。
「バライダルもそれは過去にあったことだって言ってたし、そんなに重く考えなくてもいいんじゃないか?」
志田が言うと、かれんは美玲のそばにしゃがんで手を握った。
「ねえ美玲。まだやってもいないことで不安になる必要ないよ。違っていたって誰も責めない。きっと大丈夫だから、間違えていたって何か方法はあるよ。私たちもいるんだし、ね」
「そうだぞ。こんな時こそ、4-3魂だ!」
市原がいう4-3魂とは、クラスに連帯感を持たせようと四月に全員で決めた学級のスローガンである。
クラスメイトが困っていたら全力を尽くし協力する、助け合うという趣旨のものだ。
「まあ、さ、永倉の夢のお陰でとりあえずの行き先は決まったんだし。あとはなるようにしかならんだろ」
かれんや志田の言う通り悩んでも仕方のないことなのだ。
美玲は気持ちが少し軽くなった気がした。
「そうだね。ありがとう、みんな」
まだ完全に不安がなくなったわけではないけれど。
(気持ち、切り替えないとね)
美玲はかれんが伸ばした手を握り立ち上がった。
ツイッターでも報告させていただきましたが、こちらでも……じつは先日出産しました。産後落ち着くまで更新をお休みさせていただきます。
書き溜め作業が終わり次第投稿再開させていただきます。