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走れ!

 オレンジから紺へと夕闇が迫る空が間近に見える。巨大な梟の背に乗って受ける夕日は美玲たちを朱く染め上げた。


 日暮れの風を受けながら、ベルナールたちとの戦闘があった場所から離れ、四人がホッとしていた時だった。


針葉斬撃ルチル・フォリウム・アクセント!」


 背後から突然の攻撃をまともに受け、悲鳴をあげる間も無く黒い梟は翼を失い霧散した。


星円鏡ステラ・ミロワール!」


 宙に放り出された四人は草原へ真っ逆さまに落ちていく。梟の召喚主であり、脇を平行して飛んでいたジャニファが間に合え、と叫ぶように唱える。


 おかげで間一髪、地面にぶつかる前に星の盾が現れ四人はトランポリンのようにバウンドしながら盾の上に着地することができた。


「フン、やはり来たか。 相変わらず松ヤニのようにしつこい奴だ」


 四人の無事にホッとしつつ、呆れたように視線を向けたジャニファの先にはフレイズがいた。


 フレイズは口角を少しだけあげて細身の剣先を五人に向けていた。彼が梟を消したのだ。


「君たちをこのまま行かせるわけにはいかないからね」


「フレイズ……」


 微笑んでいるようにも見えるが、見たこともない鋭さを隠さない視線に、フレイズにとって今の美玲たちは敵なのだと改めて思い知らされる。


 かつて彼から向けられた優しい眼差しはもうそこにはない。


 それを実感して辛くなった美玲はうつむき、ぎゅっと胸の前で渡しそびれたミサンガを握った。


「君たちが何をしようとしているのか、俺は知らなければいけない。もし妖精の国に危害を与えるつもりならば容赦はできない」


「危害だと?ハッ、加えているのはどっちだか……」


 ジャニファの短剣に雷の刀身が宿る。


「お前たちは丘の上へ走れ。 こいつを相手にする必要はない。 今は我が主人あるじの元へ行くことだけを考えろ」


 そして背後にいる美玲たちを振り返らずそう言った。


「でもジャニファさんは毒がまだ……」


 かれんが自分も加勢しようと前に出るが、ジャニファは腕を出してそれを制止した。


「大丈夫だ。 この程度の毒で遅れはとらない。 私もすぐに行くから案ずるな」


「行こう、久瀬」


 志田がかれんの肩を軽く叩くと、かれんは心配そうにジャニファを振り返りつつも、丘の上へと向いた。


「永倉も」


 うなだれる美玲に市原は少し遠慮がちに市原に声をかけた。


「行こう」


 美玲は市原に頷くと、丘の上へ駆け出した。


「待つんだ、君たちには聞きたいことが……」


「残念だが、あの子たちには我らの住む常夜の国に行ってもらう」


 四人を追おうとしたフレイズの進路を塞ぎジャニファは雷の剣を構えた。


「そんな状態で俺と戦おうと?」


 毒が抜けず、脂汗をかいて肩で息をしているジャニファにフレイズは呆れたような一瞥を投げかけた。


「……ハンデだよ」


 しかしジャニファはその気遣うような視線を鼻で笑って一蹴した。


ーーー


「ジャニファさん……」


 背後から聞こえる、激しく剣がぶつかり合う音にかれんは不安げに振り返り立ち止まった。


「久瀬、止まったらダメだ。 あの人は俺たちのために戦っているんだから」


 志田がそう言った時だった。


 甲高い金属音がして四人が振り返るとジャニファの短剣がフレイズに弾かれたのが見えた。


 それは草原に落ち、刃にまとった雷が消え、銀の短い刀身が露わになる。


火焔弓フィアンマ・アルコ!」


 武器を失ったジャニファを助けようと、かれんが素早く複数の火の矢を放った。


「ジャニファさん、早く!」


 雨のように降りそそぐ火の矢が草原に燃え広がる。


 かれんの叫びに気づいたジャニファは、炎がフレイズの視界を奪ったその隙に短剣を拾い、よろめきながらも羽を動かし四人の元へ追いついた。


「ジャニファさん……!」


「すまない、カレン。 助かった……」


 体を支えたかれんにジャニファが礼を言うとかれんは安心したような、くすぐったそうな顔をして微笑んだ。


風霊鎖シルフィ・チェーン!」


風射撃ヴェントス・シュート!」


 自らを囲む炎の壁を飛翔して避け、追いついたフレイズが放った風の鎖に素早く気づいた市原がそれをかき消した。


地晶壁クリスタリア・クラスター!」


 そして志田が壁を作り出し、フレイズをドーム状の水晶群の中に閉じ込めた。


地王ランドの作り出した壁だ。 これならしばらく破られない筈だ」


 誰もが志田と同じように考えていた。


 ところが。


針葉斬撃ルチル・フォリウム・アクセント!」


 黄色がかった水晶の壁は粉々に砕け、朱色の光をキラキラと反射しながら消えていった。


「もういい、そいつに構うな! 早く丘の上まで走れ!」


 そう言い、深呼吸を一つして荒い息を整えると、ジャニファは高く飛翔する。


 美玲たちはとにかく言われた通り必死に足を動かし丘を駆け上がった。


丘といっても高さは3階建ての詩葉小学校よりも高いものだ。


 だんだんと息が切れ横腹も痛んできた美玲だが、マラソン大会の途中のように立ち止まることができる状況ではない。


 ジャニファは再びアイーグを呼び出した。巨大な黒い塊となったそれはフレイズに覆いかぶさっていく。


「そうはいかないのです! ランドラゴン・マグニ、来なさい!! 」


 そこへ駆けつけたジルビアが、フレイズを覆おうとするアイーグを射抜きつつ、ランドラゴン・マグ二を土の中から呼び出した。


 ランドラゴン・マグニが尻尾の鉄球を振り回しながら尚もフレイズを飲み込みかけていたアイーグを一掃した。そして土煙を上げながら予想以上の速さで向かってくる。


「ランドラゴンだと……厄介な……。お前たちは止まるな、走れ! 夜の扉はすぐそこだ」


 そう叫ぶとジャニファは再び短剣に雷を纏わせた。


 だが頂上に向かって背の高い草が生い茂る坂道を駆け登るのは大変で、とくに美玲とかれんの走る速度はどんどん遅くなる。


「わっ!」


 ついに足をもつれさせた美玲が転んだ。


「美玲!」


「足が、もう……」


 かれんの手を借りて美玲は立とうとしたが、右足首を痛めたようで力を入れると鈍い痛みが走った。


 ふくらはぎも太ももも疲労からか熱を持ち、痛みがある。


 ランドラゴンがどんどん距離を縮め、振り上げられた尾の鉄球が迫ってくる。


「くっ、星円鏡ステラ・ミロワール!」


 ジャニファは動けなくなった美玲とかれんの前に素早く出ると、短剣で大きく弧を描いた。


「そんなもので重くて硬いマグ二の尾を防げるとでも?」


 ジルビアの言葉通り、ランドラゴン・マグ二の鉄球は飴細工のようにいとも簡単に星の盾を破壊した。


 目の前に鉄球が迫り、ジャニファが二人を守るように強く抱きしめた。


「久瀬!」


「永倉!」


 志田と市原の叫びが聞こえて、美玲とかれんはジャニファの腕の中でぎゅっと目を閉じた。


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