久々の魔法
四人は再結晶化して歪になった精霊石を隊長たちに向けた。
「上級精霊だと? バカな」
「ニンゲンが召喚できるなんて……」
美玲たちが召喚した上級精霊を目にしてうろたえつつも、ベルナールたちは武器を構え戦闘態勢を崩さない。
「うろたえるな! 相手はニンゲンだ。精霊石を狙え! そうすれば上級精霊たちは消える」
ベルナールの言葉に冗談じゃない、と美玲たちは思った。せっかく召喚できたのにまた精霊石を失うわけにはいかない。
美玲は市原と、かれんは志田とそれぞれお互いに目配せして頷いた。
四人の精霊石が意思に応えるように輝き出し、上級精霊たちも光に包まれた。
「雹嵐舞(グランディー二・トルネード)! 」
水皇の生み出した水滴を風主が巻き上げ、凍らせて鋭いつぶてを作る。そしてそれはグリルとジルビアへと飛びかかった。
「グリルさん、来ます! 」
「来い、火精霊! 」
「現れよ、地精霊! 」
二人が声高に命じるとそれぞれの精霊たちが姿を現した。
「氷なんて俺たちが溶かしてやる! 紅蓮弾! 」
グリルが炎を腕にまとい、地精霊の生み出した溶岩を打ち出しながら美玲と市原が作り出した雹嵐につっこんでいく。
だが。
「なんということでしょう、グリルさんが氷漬けになってしまいました……! 」
唖然とジルビアが呟いた。その言葉通り、嵐が止むと草原にグリルの氷像が残されていた。
「なんてこったい……グリルが……。 やるよ、ベル! 水精乱舞! 」
「おう、風精冷陣! 」
水精霊が風精霊の作り出した冷気の陣で舞う。優雅なその様はまるでフィギュアスケートのようだ。
水精霊が舞うたびに水滴が冷やされ、氷の鏃を複数作り出していく。そして十分の大きくなったそれは四人をめがけ鋭い音を立てて向かってくる。
「溶岩乱舞」
しかしそれを阻もうとかれんと志田が静かに、しかし鋭く唱えると、地王が轟音を立てて踏み鳴らした草原が割れた。そしてそこへ深く手を差し入れた炎帝が溶岩のヴェールを引き上げていく。
炎帝がその灼熱のヴェールをもち、舞うと溶岩の雨はベルナールとセレイルに降り注いだ。
「くっ! まったく、属性丸無視とは全く、非常識だね……! 」
「セレイル! 」
自分たちに降り注ぐ溶岩をベルナールは大剣で、セレイルは槍で砕き弾いていくがその量の多さに守りに徹するので精一杯のようだ。
しかし次第に追いつかなくなり、二人とも灼熱の土煙に埋もれていく。
「隊長! 」
一歩下がって四元騎士団隊長たちの戦いを見守っていたフレイズの叫びがもうもうと立ち込める土煙の向こうから聞こえてきた。
「志田くん、ジャニファさんに守りをお願い。 美玲は回復を! 市原くんは私と攻撃に出て! 炎帝円舞!」
かれんは負傷しているジャニファの守りと回復を志田と美玲に頼むと呪文を唱えた。
「うん、わかった! 」
「任せろ! 」
指示されたとおり、美玲と志田はジャニファの元へ駆け、市原がかれんの隣に立った。
「行くぞ、風刃舞! 」
炎帝は両手両足首に飾られた金環を涼やかに鳴らしながら舞い、土埃の向こうにいるであろう隊長たちへと容赦ない追撃の炎の雨を降らせていく。
風主も市原の呪文に応じて風の刃を舞わせる。
炎の雨は風の刃の力で力を増幅させていく。
「……ま、け、るかぁあああ! 」
氷漬けになっていたグリルが自分にまとわりついていた氷を、火精霊を呼び出し内から溶かし、砕いた。そして炎の雨と風の刃を拳で弾いていく。
その激しい攻防に草原は再び土煙と水蒸気に覆われた。
ようやく視界が晴れると、少しはダメージを与えられているかとも思ったが、ベルナールが風の幕をそれぞれの隊長に張り、炎の雨の攻撃を避けていた。
「濃くして小さく張ったがなんとか保ったみたいだな。これでも四元騎士団の隊長のアタマやってんだ。なめてもらっちゃ困る」
「水精霊乱舞!」
未だ降り注ぐ炎の雨を消そうとセレイルが複数の水精霊を再び召喚した。宙を舞う水精霊たちは水の帯を振り、炎を消そうとするが、炎の勢いの方が強く蒸発して消えてしまう。
「くっ、やはり上級精霊の炎には敵わないかい」
属性の上では水の方が火には有利なのだが、上級精霊と精霊では威力の面では劣り負けてしまう。
「水晶壁! 」
志田がかれんに言われた通りに守りの壁を作り出し、美玲はジャニファに駆け寄った。
「ジャニファさん、大丈夫ですか?今回復を」
「すまない……」
「水癒唄」
美玲が両手を祈るように組み唱えると水皇がハープを奏で、ジャニファの傷を癒していく。
「ごめんなさい、今の状態だと毒は消せないみたい……」
傷口は塞がったが、まだ顔色が優れない。 どうやら毒の症状はきえなかったようだ。
「いや、いいんだ、ありがとう。 これは我が主人の元へ帰ればなんとでもなる」
ジャニファがよろけながらも剣を支えに立ち上がり背後の丘の上を指した。
「あそこに行けば私が通ってきた夜の扉がある。 行くぞ」
そう言って剣を大地に突き立てた。
「来たれ、嘆きの証よ……! 」
そう唱え剣を抜くとそこから黒い闇が噴出した。
それは久しぶりに見るアイーグの大群だった。
「夜の波となり、行け!」
ジャニファの命令でアイーグの大群が4人の隊長に襲いかかる。 今は敵ではないが、その黒い波が蠢く様子は見ていて気持ちのいいものではない。
「おまえたち一旦退くぞ、戻れ! 」
「はいっジャニファさん! 」
かれんが声を弾ませ市原とともにジャニファの元へ戻った。 そしてジャニファがよびだした黒く大きな梟の背中に四人は乗る。
「行くぞ」
そう言ってジャニファが梟の肩のあたりを撫でると、梟は鋭く甲高い鳴き声を上げ、翼をはためかせた。
「お待ち! 逃げる気かい?! 」
槍を振り、アイーグを消し去ったセレイルが空を見上げて叫んだ。
「行け、フレイズ!」
ベルナールもまたアイーグに囲まれ身動きが取れない。
隊長の命令を受けうなずくと、フレイズは素早く飛び立った。