一つの疑惑
「で、どうだった?」
森の奥に先行させた部下たちから報告を受けたセレイルに、ベルナールが聞く。
ちらりと見やった視線の先では美玲と市原はフレイズとともに木の実を食べている。
「報告によると、ここら辺にはアイーグの気配はないらしい。でもこれだけ静かなのは不気味だね」
ベルナールが腰を下ろす木に自分もさもたれ、何かの罠かもしれない、とセレイルは腕を組んで考え込む。
「まあ、安全なのはいいことじゃねぇか。こっちには嬢ちゃんたちもいるし、このまま女王陛下のもとに行ければ万々歳だな」
そう、隣に立つセレイルを見上げていう。
「あんたは呑気だねえ」
ベルナールの言葉に苦笑していうセレイルに、しかし首を振った。
「そうでもないさ。お前はおかしいと思わないか?」
顎に手を当て、深いため息をつく。ずっと抱えていた疑惑だ。
「敵が出ないことがかい?」
「そうじゃねぇよ。トルト様のことだよ。まだ力に目覚めていない嬢ちゃんや、坊をシラギリの任務に同行させるなんてよ」
ベルナールの言葉にセレイルも頷いた。
「あぁ、そのことかい。確かに…あたしもそれは気になっていたよ。でも、トルト様は賢いお方だ。何かお考えがあってのことだろうよ」
「お考え、ねぇ」
「きっとあたしらには思いもよらないことさ」
そう言って伸びをする。そろそろ出発の準備をしないと、日暮れ前に帰れなくなる。大人だけならまだしも、子どもがいるのだ。こんな危険な森から早く抜けてしまいたい。
「ま、考えても仕方ねぇか。とにかく、目の前の任務を片付けねぇと、だな」
「そういうことさね」
膝を叩いて立ち上がったベルナールの背を叩き、セレイルは休憩終了の号令をかけた。