自分たちが今、できることを
ジルビアの矢が掠めた腕を抑えてジャニファは膝をついた。
「ジャニファさん、ジャニファさん……どうしよう……」
「うろたえるな……私は大丈夫だ」
ジャニファは呻きながらも取り乱すかれんにそういうと、ポケットからハンカチを取り出して腕にきつく巻いた。だがそこはすぐに血が滲んできている。
「……っく」
「毒が効いてきたでしょう?いまから四元騎士団隊長の権限により、あなたを城に連行します。蝶の羽を持ちながらニンゲンに加担している……これは重大な罪です」
「毒?!」
ジルビアの言葉にかれんが小さく悲鳴をあげた。
「私は大丈夫だと言っただろう、静かにしろ」
ジャニファはなんでも無いことのように言うが、顔は青ざめ額には汗が浮いている。膝は震えており、立つのもやっとという様子だ。
「さあ、観念おし」
セレイルが槍の先を向けて言う。ベルナールのそばでは風精霊が舞い、風の鎖を作っている。
「私たちがジャニファさんを守らないと」
かれんの言葉に美玲たちは頷いた。
何もしないよりも、行動しなければ。校長先生や担任の里山が話していたように、自分たちができることを探そう。
四人は頷き、自分たちの武器についている、それぞれの武器についている精霊石に触れた。
(水の要素を……集める……水の……)
美玲は初めて水皇を召喚した時の感覚を思い出していた。ひび割れているけれど水皇との契約の証である精霊石はここにある。呼びかければ答えてくれるはずだ。きっと。
学校の畑でだって精霊石はこたえてくれた。小さいけれどネフティのペンダントに装飾されているものもある。
やってできないことは絶対に無いだろう。
(お願い……水皇応えて)
ざわり、と足の裏に痺れた感覚を覚え、肌が粟立つ。地の底を流れる水の気配を見つけそれを引き上げていくイメージを持つ。
(水皇……)
強く願いを込めようと、自然と眉間に皺が寄る。やがて、ひび割れた精霊石が淡い水色の光を放ち始めた。
それは他の三人のものも一緒だった。
「ニンゲンが精霊石を持っているだと?」
「精霊石は俺たち妖精のものだ。取り返さないと!行け、火精霊!」
それをみたベルナールは信じられない、という風に呟き、カッと頭に血が上った様子のグリルが両腕のグローブに炎をまとい、天に振り上げた。そこから炎を纏ったトカゲが数匹飛び出し、意識を集中している四人に襲いかかった。
「くっ、やらせん!雷斬波!」
ジャニファはふらつく足に力を込めて立ち上がり、短剣に雷の刀身を纏わせ長剣に変えると、肩で息をしながら火精霊を迎え撃とうと下段に構えた。
「グリルさん、炎の要素をありがとうございますっ!力を貸して、炎帝!!!」
かれんが叫ぶと、バトンの先についた精霊石から炎が渦のように噴きあがり火精霊を飲み込んだ。
そしてついに炎帝が姿を現した。
「風主!」
「地王!」
市原のリストバンドの中央に埋められた黄緑色の精霊石からは弓矢を持った風主が、志田のグローブの背に付いている黄色の精霊石からは地王が現れた。
(私も……!)
「水皇!」
今だ、という確信に大きくその名を呼ぶと、美玲の持つ武器の先端に飾られた水色の精霊石から水皇がしぶきを上げながら現れた。
「よ、喚べた……」
四体の上級精霊たちがついに応えてくれたのだ。