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登校日

 登校日といっても、お盆休み前の注意喚起をするためだけなので、全校集会のあと、各教室で帰りの会をして下校となる。


 体育館では4隅で大きな扇風機が回され、窓も中庭へと続く扉も全て開け放たれていたものの、やはり体育館はサウナのように蒸し暑かった。


 先生も児童も汗だくになりながらの全校集会が終わり、教室に戻ると生徒たちは持って来た水筒でのどを潤した。エアコンが効くまでもうしばらくかかりそうだ。


 担任の里山が来る頃には教室も涼しくなっていた。里山は教室の角にある事務机に腰を下ろし、引き出しの中からペットボトルを取り出して自分もまた水分を補給した。


「暑かったな体育館。ちゃんと水分補給しろよ〜。飲んだか?よし、それじゃあ、帰りの会始めるか」


「これから帰りの会を始めます。里山先生お願いします」


 全員が一息ついた頃、里山の号令で学級委員長である志田と副委員長の海中うみなかが前に出て、彼らの司会で帰りの会が始まった。


 普段は日直がやる仕事だが、今日は夏休み中の登校日なので特別に学級委員がやることになっている。


「えー、まず、校長先生もおっしゃっていたように、だな、まぁ事故のないよう、残りの夏休みを過ごすように。川や海に行くときは必ず大人の人と行くんだぞ。それからお家の人のお手伝いもしっかりな。自分にできることは何か、進んで探すのも大切だからな」


 里山の話は全校集会で校長が言っていた内容と大して変わらなかった。なので、クラスのみんなは静かに話を聞いている様子だが、頭の中はお盆休みに行く家族旅行のことやお祭りのことでいっぱいだった。


「さて、じゃあこのくらいでいいかな、と」


「先生はお盆のお祭り、彼女とデート行くの?」


 一区切りついたと両手をパンと打ち、黒板の前に立つ志田と海中を振り返った里山に、突然市原が質問をした。


「うん?そうだなーお盆の盆踊り、彼女の浴衣姿見れたらいいよなーって、彼女いないわ!絶賛募集中だわ!!」


「えー?でも大芝おおしば先生とはどうなんですか? 」


 大芝先生とは音楽の先生でセミロングの髪にふわりとパーマをかけたとても可愛らしい先生で、詩葉小の児童たちにも大人気の先生だ。


 そしてその先生のことを担任の里山が好きだと言うことはクラスのみんなは知っている。


 だって大芝先生を前にした里山ときたら、顔を食べ頃のミニトマトのように赤くして動きもおかしくなるものだから、バレバレなのだ。


「い、市原〜〜〜っ大人をからかうんじゃないっ!それから、志田と市原は話があるのであとで職員室にくること。ということで、解散!エアコン止めて行くからな。教室が暑くなるまでに下校すること!」


「きりーつ!れーい!」


 真っ赤に熟したミニトマトのようになった里山の合図に志田と海中が号令をかけた。


ーーー


「美玲、これからどうする?」


 帰りの会が終わると、かれんが美玲の机にやってきた。本当は市原と志田にも相談したいがここは教室。他の女子の目もあるし、ただでさえ翡翠じぇいどたちに睨まれているというのに、面倒ごとにはしたくなかった。


「さっきみたいにファンクラブに睨まれることになるのは嫌だな……」


 ちらりと美玲が後ろを伺うと、翡翠じぇいどの鋭い視線と目が合いそうになって慌てて手提げの中を確認するそぶりをした。


 このまま教室にいたらファンクラブの女子たちにまた呼び出しをされかねない。


「そうだなあ……ミニトマトの収穫しに行こうかな」


 もし行けたとしたなら、妖精の国での非常食になるかもしれない。それに熱いグラウンドの端までわざわざ翡翠じぇいどたちが付いてくるとは思えない。というかこないでほしい。


「永倉、久瀬、お前らどこ行くん?」


 二人でこそこそと教室を出ようとしたところ、市原と志田がやってきた。これから妖精の国に行くのを試す相談が必要とは言え、予想通りにクラスの女子たちの視線が集まり居心地の悪さにため息が出る。特に翡翠じぇいどの席からは槍のような視線が突き刺さってくる。


「畑」


「うん、ミニトマト見てこようかなって話してたの」


 他の女子たちを刺激しないようになるべくそっけない態度で美玲が返すと、かれんが補足をした。


「俺たちは職員室行くけど一緒に来ないか?」


「はあ? 呼び出されたのはあんたたちでしょ。 うちらちゃんと傘返したもん」


 市原の思いもよらない提案に美玲とかれんは顔を見合わせた。


「前も俺たちが揃って職員室に行ったあとにあっちに行っただろ? それに、今は俺たちといたほうが都合がいいと思うけど」


 そう言って志田がこっそり後ろを指差した。見なくてもわかる。女子たちの視線がずっと刺さってきているのだから。


 たしかに志田の言う通りだろう。ここで断れば女子たちから呼び出しを食らうことは間違いなさそうだ。

 だが用もないのに職員室なんか行きたくはないのが小学生というもの。


 市原と志田の申し出に迷い美玲が唸っていると、海中うみなか真珠ぱぁる翡翠じぇいどたちとやってきた。


「志田君、日誌私が出しに行くよ」


 そうはいうものの、翡翠じぇいどの指示で本当のところは美玲たちが何を話しているか探りにきたのだろう。


「いや、先生に呼び出されているし俺が持ってくよ。海中たちは暑くなる前に帰れよ。熱中症になったら大変だからな」


 そう言って志田がニカッと白い歯を出して笑った。途端に海中たちの顔は先程の里山と同じように、熟れたミニトマトとなった。


「あ、ありがとう……志田君」


「じゃあな」


 志田はそう言うと、美玲とかれんの背中を押して教室を出た。


「ちょ、志田! うちら行くなんて……」


「いいから、永倉たちもこのまま俺らと行ったほうが絶対楽だって」


「志田!」


 そのまま踊り場に出て階段を降りようとした時、後ろから慌てた市原の声が聞こえてきた。


 何事かと三人が振り返ると、大きなリュックが教室の入り口に詰まって動けずにいる市原の姿があった。


「助けてくれ!」


「いやだからそんな大荷物でどうやって教室に入ったんだよお前は……」


 志田は呆れながら市原を救い出し、四人連れ立ってそそくさと職員室へと向かった。

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