ファンクラブとの対決
「ちょっと永倉さん、久瀬さん」
「何?」
美玲とかれんは職員室を出て、二階にある教室へ向かっていた。しかしその途中、階段の踊り場で仁王立ちした女子三人が二人の前に立ちふさがったのだ。
中央に立っているのは、その中でもボス的な存在、瑠璃島翡翠だ。彼女は密かに結成されている市原騎士ファンクラブの会長をしている。
翡翠はサラリとしたストレートヘアをツインテールにまとめ、宝石のようにきらめく黒く大きな瞳を持った美少女で、よく美麗な名前をつけると名前負けする子になると聞くことがあるが、翡翠はその宝石の名に負けていない。
そしてその隣にいるのは薄い色素のショートヘアに紫のヘアバンドをつけた紫崎菖蒲だ。涼やかな瞳を不機嫌そうに細める彼女は志田のファンクラブ会長をしている。
目を釣り上げて仁王立ちする彼女たちに代わり、メガネをかけた細身の女子が前に進み出た。彼女は海中真珠。翡翠と菖蒲の幼馴染である。
「呼び止めてごめんね。二人に話があるの。こっちに来てくれる?」
後ろの二人よりはいくらか温和な様子の真珠だが、しかし告げられたその不穏な言葉に、美玲はかれんと顔を見合わせた。この三人からは正直逃げたい。
しかし、逃げたら逃げたでそれもまた面倒なことになりそうだと、仕方なく三人について行くと、三年生と四年生の境になっているトイレ前のフロアで、彼女たちはくるりと向きを変えた。
そろそろ先生たちが来る朝学活の時間なので、三年生も四年生もほとんどの生徒は教室に入っているため、廊下にいるのは美玲たちだけだ。
「あなたたちどう言うつもり?市原くんと志田くんと登校してくるなんて」
我慢ならない様子の翡翠の言葉にやっぱりそのことか、と美玲はかれんと顔を見合わせた。
見た目もよく、運動神経も抜群の彼らにはファンクラブがあるということをすっかり忘れていたのだ。
妖精の国では四人でいるのが当たり前だったし、会話も普通にしていだけれど、こちらではそれをすると今のようにファンクラブから睨まれるという大変なことになることを忘れていた。
「話したっておかしくないでしょ?クラスメイトなんだから。それに無視したらいじめなんだよ」
妖精の国に行く前だったら萎縮してしまったかもしれない。しかし今は美玲もかれんも言い返さないと気が済まなくなっていた。
「は?別に、うちらは市原くんたちを無視しろなんて言ってないし。勝手に話すなっていってるだけだし」
美玲の言葉に、まさか言い返されるとは思っていなかったらしい短気な翡翠が頬を赤くして身を乗り出したが、真珠に止められて荒い息をついている。
「市原君と志田君には許可なく話しかけたり近づいてはならないってファンクラブのルールで決まっているのよ」
腕組みをしながら菖蒲が言ったそれは、女子の中に広まっている暗黙のルールでもある。
「でもそれ、ファンクラブに入ってないうちたちには関係ないよね?」
「ちょっと、久瀬さん……!」
かれんの反論に、菖蒲も涼やかな目を釣り上げた。
「おいおい、お前ら何やってんだ?ケンカか?」
「市原、志田」
一触即発の空気を破ってやってきたのは、丁度今話題になっていた二人だった。
「なかなか教室来ないからどうしたのかと思って。どうしたん?」
思いもよらない市原と志田の登場に翡翠たちは先ほどの威勢はどこへやったのか、途端にモジモジとうつむいてしまった。
まるで妖精の国に行く前のかれんと同じような状態である。遠巻きに眺めすぎて彼らへの耐性がないのだろう。
「ちょうどよかった。瑠璃島さんたちが、あんたたちに話があるみたいよ〜?」
「ちょ、永倉さん?! 」
美玲はもみ手をしながら、市原と志田を女子三人の前に誘導した。
「そうなん?」
「そうなんよ。じゃあね」
怪しむ市原にそう返すと、男子二人を身代わりにした美玲は、かれんの手を引いてそそくさと教室に向かった。逃げるが勝ちだ。
「───で、俺たちに話って何?」
美玲とかれんを見送った市原と志田が翡翠たちに向き直った。
「あ、の……えっと……」
あんなに勢いがあった三人は志田の質問にたいして憧れの人に話しかけられたという恥ずかしさからかお互いを小突き、「あんたが言いなさいよ」状態である。
「ないなら俺たちも行くからな。じゃあな」
モジモジしたまま小突きあっている三人を疑問に思いながらも、丁度チャイムも鳴ったので志田は市原と「変なやつら」と首を傾げながら教室に戻って行った。
「永倉さん……久瀬さん……!」
しばらくポーッとしていた翡翠だったがだんだんとファンクラブに逆らった美玲とかれんへの怒りをじわじわと燃え上がらせていた。
「市原君と志田君に話しかけられちゃった……」
しかし怒りに震える翡翠とは逆に真珠はほおに両手を当ててうっとりしている。
「志田君やっぱりかっこいい……っ!」
菖蒲は間近で見られた志田の姿をまぶたの裏に焼き付けようと目を閉じて胸の前で手を組んでうっとりとしている。
「ちょっと、二人とも!」
しっかりしなよと揺さぶっても、まだ夢心地な二人はなかなか正気に戻らない。
「おいお前ら何やってんだー?チャイムなったぞ。教室入れ〜。先生より後は遅刻になるぞ〜」
聞こえてきた呑気な担任、里山の声にほんの少し……いやかなりイラッとしながらも、まだうっとりとしている幼馴染二人を引きずって翡翠は教室へと急いだのだった。
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作品を読んでくださっている皆様へ。
ご存知の方もいらっしゃるとは思いますが、現在小説家になろうの多くの作品が2CHreadというサイトに無断転載されまくっている事態です。
そして先日、この作品の無断転載も確認しました。
その対策のため、今回の話から本文を前書き部分に書くことにしました。
読みづらいとは思いますが、お付き合いいただけると嬉しいです。
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