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待ちに待った日

 登校日のために、美玲は迎えに行ったかれんと一緒に学校への道を歩いていた。

 雨続きのあと、久しぶりに現れた照りつける夏の日差しに蝉たちは気持ちよさそうに大合唱をしている。

 二人の手には先週学校で借りた黄色い傘が握られ、丸みを帯びた先端をアスファルトに時々つけながら、美玲は昨夜の夢の話を興奮気味にかれんに話していた。


「その夢、すっごくリアルだったの。まるで本当に妖精の国に戻ったのかと思ったくらいだったんだよ」


「すごいね、精霊王の結婚式の夢なんて」


「うん、でもね、光柱ルクス・カラムの間で見たときの精霊王となんか違う感じがしたんだよね……」


「違う?」


「うん。なんていうか……そう、フレイズ!フレイズっぽい感じがしたんだよね。それからミアラって人は水皇セイレーンにそっくりだった!」


 光柱ルクス・カラムの間でみた精霊王の雰囲気は落ち着きのある大人……というよりも老人という感じだった。だが昨夜の夢に出て来たサニィと名乗った精霊王はそれよりも若々しく感じたのだ。

 それが誰に似ているかようやく思い出した。


 フレイズだ。


 美玲はポケットに入れてあるフレイズのブレスレットに触れた。あの夢を見る前、ブレスレットが強い光を放ったこととあの夢と何か関係があるのだろうか。


 なんだか今日は絶対に妖精の国に行ける、そう確信めいた予感を美玲はあの夢を見たことで今朝から持っているのだ。


 だから服装も先週妖精の国に行った時と同じ服を選んだ。鉢巻を巻いたタコの絵が描かれたTシャツと色落ちしたサブリナパンツだ。

 かれんも淡い黄色のキャミソールに黒のデニムミニスカートを着ている。


 同じ格好の方がまた妖精の国に行けるような気がしたのは美玲だけではないようだ。


「あっ」


 校門の近くまで来た時、そこに立つ二人に気付いたかれんが嬉しそうな声をあげた。


「よぅ、永倉、久瀬」


 そこにいたのは市原と志田だった。彼らも先週と同じ服装だ。どうやら二人は美玲たちを待っていたようである。

 なぜわかるかというと、市原と志田も美玲たちの姿を見つけると、近づいて来たからだ。


「ちょっと市原、何その荷物……」


 志田は美玲たちと同じく手提げを1つ持っているだけだったが、市原はキャンプにでも行くのかと言うくらいの大きなリュックを担いでいる。とても夏休み中の登校日に持ってくる荷物には見えない。


「これか?非常食とか、必要になりそうなものを持って来たんだ」


 自慢げな市原だったが、四人のそばを通り過ぎて行く他の児童たちが市原を興味深そうに見ている。


 そんな視線に囲まれながら四人は一緒に児童玄関へと向かった。


 美玲は内ばきを手提げから出して履き、つま先をトントンと床につけながらかかとを引っ張る。洗ったあとの靴は少し履きづらい。


「そういえば二人とも、この前先生に借りた傘は持って来たの?」


 先に内ばきを履き終えたかれんが聞くと、市原と志田は顔を見合わせた。その表情は眉間にシワがより、「まずい」とでも言うようにみるみる渋いものになる。


「忘れた!志田は?」


「俺も忘れた……」


「じゃ、うちらは先生に傘を返してから教室行くから」


「永倉、俺たちは忘れたって先生に言っといて」


「えー、自分で言いなよ」


「怒られるのやだから頼む!じゃな!」


「悪いな、頼むよ久瀬」


 調子のいいことを言って、市原は志田の手を引いて階段を駆け上がって行ってしまった。市原に引っ張られながら志田もかれんに頼み、二人の姿はあっという間に階段の上に消えて行ってしまった。


 逃げ足の速いやつらめ、とため息をついて、美玲はかれんと職員室のドアをノックした。

 そして自分たちを見つめる不穏な視線に気づかないまま、美玲とかれんは職員室に入ったのだった。

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