登校日前夜
美玲はベッドの上で仰向けに寝転がり、天井を眺めていた。明日は登校日。もう一度妖精の国に行くのを試す日だ。
妖精の国に行くための鍵になるかもしれないネフティのペンダントは登校日に持って行く手提げに入れてある。
美玲はうつ伏せになると枕元に置いてある本をパラパラとめくった。市立図書館で借りてきた世界の神話と伝説の本だ。あらすじの中に“妖精”という文字を見つけ、思わず貸りてきたのだ。
そこには水の精霊と神様の神話や、神様と巨人との結婚、妖精の結婚の伝説などがかいてあり、違う種族でも結ばれる伝説が多く載っていた。とても面白くて半日で読み終えたくらいだ。
中には悲しいお話もあったが、四天が言っていたような、種族が違うから結ばれてはならないという話は無かった。
四天がかたくなにユンリルとバライダルを許さない理由がわかるかもと思ったのだが、結局何も分からなかった。
美玲は本を閉じると、フレイズからもらったブレスレットを眺めた。とても綺麗な黄緑色の風晶石だ。
仰向けになって蛍光灯にかざすとキラキラと光を反射してとても綺麗だ。
美玲は自分もフレイズに何か贈りたいなと思い、ベッドからおりた。そして何かないだろうかと机の引き出しを開けると、刺繍糸をみつけた。
白、レモン色、水色の三色のその糸は、かれんと一緒にミサンガ作りをした時のものだ。
「そうだ、これだ……!」
フレイズのようなものはつくれないが、ミサンガは不器用な美玲でも作れる唯一のアクセサリーだ。
美玲は椅子に腰かけ、三本をまとめるとセロハンテープで机に固定した。
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「できた……!」
数十分後、ミサンガを完成させた美玲は達成感でいっぱいだった。ミサンガを雑貨屋で買ったかわいい小袋に詰め、シールで封をした。我ながら上手くできたとにんまりして、それも手提げに入れた。
そこでふと思った。こっちに帰ってきてから何度も思っていることだ。それは。
「本当にまた妖精の国にいけるのかな……」
ブレスレットを左手につけ、石の列を指でなぞった。すると突然、精霊石が強い光を放ち始めたのだ。
「なに、これ……」
緑から白へ、だんだんと光は強さを増していく。眩しくて、光から目を守ろうと美玲は手をかざした。
まさかこのまま妖精の国にいけるのでは、と淡い期待を持ちながら、美玲はだんだん気が遠くなって行った。