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子どもの直感

 昼食を終え、舞花のノートにウサギのシールを貼ると、美玲は二階の自分の部屋に戻った。

 夏だが雨のせいかいつもより熱気はこもっていないようだ。

 汚してもいい習字用の黒の半袖とジーンズに着替え、学習机の脇に置いてある、三段になっているカラーボックスの一番下からキルト地の手提げに入ったままの習字道具を取り出した。


「おねえちゃんどこ行くの?舞花も行く!」


 階段を降りてリビングに戻ると、お絵かきをしていた舞花が目ざとく美玲を見つけて駆け寄ってきた。


「舞ちゃん、みーちゃんはこれからお習字に行くんだよ。舞ちゃんはお留守番」


「えー!舞花もおしゅうじ、行きたい!」


 祖母がたしなめても舞花は行きたい行きたいと地団駄を踏んでいる。久々に見るその様子がなんだか懐かしくて、美玲は吹き出した。


 こちら側で流れている時間的には久々ではないのだが、妖精の国で何日かを過ごした美玲にとっては、久々に見るエネルギッシュな妹の地団駄である。


「おねえちゃん?」


 いきなり笑い出した美玲にキョトンとして舞花は動きを止めた。


「なんかおねえちゃん変。いつもと違う」


 顔を覗き込んでくる舞花の頭をなでると、舞花はイヤイヤをするように頭を振った。


「もー、早くおしゅうじ行きなよ〜!」


 それからボサボサになってしまった髪を手ぐしで直し、また画用紙の前に逃げ出したのだった。


「舞花は行かないの?」


「行かない!雨だし舞花はお絵かきで忙しいの」


「行ってきます」


 あんなに行きたがっていたのに、と気まぐれな妹に苦笑すると長靴を履いて外に出ると、帰ってきた時よりは雨足が弱まっていたまだ雨は降り続いていた。


「ふぅ……」


 美玲は降り続ける雨にため息をついて、風除室を出るのと同時にオレンジの傘を開いた。白の花が所々に描かれているお気に入りの傘だ。


 傘に当たる雨音は不揃いで、しかしその音の大きさからまだ雨は弱まる気配がないとわかった。

 時々横を通る自動車が上げる水しぶきをうまく避けながら歩いていくと、公園が見えた。毎朝ラジオ体操をしにくるところだ。そしてここにはフレイズの木もある。

 美玲は公園に入って、一本しかない松の木のそばに行ってみた。


「フレイズ……」


 美玲はジーンズのポケットを探ってフレイズからもらった風晶石のブレスレットを取り出した。

 木に掲げて見ても、触れさせて見ても透き通った石はなんの反応も見せず、ただの綺麗な石のままだ。


 儀式を終えた後、また会えるとおもっていた。でもこんなふうに突然会えなくなるなんて思ってもみなかった。


 美玲はブレスレットを手首につけると松の木に額を当てた。ザラザラの木の肌は雨のせいか少し湿っている。


 妖精の国は今どうなっているのだろう。ジャニファたちは無事だろうか。フレイズやポワンはどうなったのだろう。


 彼らは突然美玲たちが消えて心配してくれているだろうか。


 それとも、もう忘れてしまっただろうか。こちらの世界と妖精の国との流れる時間も違うようだし。こちらの数分は、あちらの十数日だった。


 もしかしたら美玲たちのことをもう必要としていないかもしれない。


 だんだんとネガテイブになってきて、心が重たくなってきた美玲は、慌てて頭の中からそれを飛ばすように頭を振った。そしてまた、額を幹につける。


 思いを馳せてみても何も見えない。聞こえない。木を通して自分を見守ってくれていると言っていたフレイズに、少しでも自分はここにいると伝えたかった。


「………必ず、戻るからね」


 そう呟いて松の木から離れ、美玲は書道教室へと足取り重く向かったのだった。

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