姉妹
土砂降りの中、ようやく家にたどり着いた美玲は傘をたたんですりガラスがはめられた玄関の扉に手をかけた。
スニーカーは水がしみて色が変わり、
ぐちょぐちょだ。足をあげると靴下と中敷が引っ付いたみたいになってから離れるという違和感に、裸足で歩きたい気分である。
引き戸になっている扉を開くと、それはガラガラと音を立てた。
「ただいま〜」
風除室に傘を立てかけ、家の中に入ると仁王立ちした妹がでむかえてくれた。その表情はにこやかではなかったが。
「お姉ちゃんおそい!さんどっち、舞花がぜんぶつくっちゃったよ」
癖のある髪をゴムでツインテールにまとめ、白地に虹の色をした花が描かれたTシャツに卵色の短パンを履いた舞花は、舌足らずながらも美玲に説教を始めた。
「そうなの?ありがと」
「お手伝いシール、舞花のノートに貼ってね」
「はいはい」
夏休みの宿題で家の手伝いをする項目があり、自分で決めたお手伝いをしたら家族にサインをもらうことになっている。
美玲が親からハンコをもらうのをみて妹の舞花もそれの真似をしているのだ。
雨の冷たさに疲れが増していた美玲は、妹の説教を聞き流して廊下に腰かけるとスニーカーを脱ごうとしたが、湿った靴と靴下が擦れて抜けにくい。
「もー、なにしてたの?びちょびちょ」
「傘持って行ってなかったから雨宿りしてたの。先生に傘借りて帰ってこれたんだよ」
ようやく抜けた足からこれまた取りにくくなっている靴下を脱ぐと、抜きだ靴下からポタポタと雫か滴る。よほどの水分を吸ったのだろう。
履いていた自分でさえも驚くほどに靴下は重く濡れている。
「まあまあ、みーちゃんおかえり。そんなに濡れて」
廊下の奥から暖簾をくぐって出てきた祖母の手にはタオルがあった。舞花との話が聞こえていたのだろう。
白髪をしたの位置でお団子にまとめ、藍色の麻のワンピースの上から白の割烹着をきた祖母はパタパタとスリッパの音を立てて美玲のところまで来た。
柔和で温厚祖母は美玲の帰宅か遅くなっても怒ることはない。何故遅くなったのか理由がわかっているからだ。大して話を聞かずに頭ごなしに叱りつけることはしないのだ。
ちなみに両親は仕事で不在である。仕事中、近くに住む祖父母が美玲と舞花の世話をしてくれているのだ。
「おばあちゃん、ただいま」
「おかえり。とりあえずシャワーあびなさい。風邪を引いたら大変」
「はーい」
祖母からタオルを受け取ると、美玲はスニーカーを立てて置いてから上がり、水が滴るほど染みた靴下を持って風呂場へと向かったのだった。