真の姿
白く眩しい光が光柱の間をみたしていく。
「どういうことだ、これは……なにが起こっているのだ」
戸惑うバライダルの声はするが、眩しすぎる光にその姿を見ることはできない。隣にいるかれんも、市原と志田の姿も全く見えなくて、そのうち美玲は自分だけ別の場所にいるのかと錯覚してしまいそうになっていた。
「かれん……どこ?」
不安になって呼びかけると、光で見えなくなるまですぐ隣にいたかれんが美玲の手を握ってくれて、美玲はホッと息を吐いた。
「フフ、フハハハハ……アーッハッハッハ!」
突然、白い光の向こうからトルトの高笑いが聞こえてきた。同時に光はだんだんとその力を弱めて行き、再び光柱の間は淡い光のみが照らす薄闇の状態になった。
「ようやく戻れた……元の姿に……っ!」
美玲たちには聞こえてきたその言葉がトルトのものだとはわからなかった。それは男と女の声が混ざっていて、とても不気味な声だったからだ。
そして光の加減に目が慣れていなかった目を凝らして、声がした方を見た四人は言葉を失った。
彼女の白く細い両手は茶色い雀のような鳥の翼に変化し、額の中央とその左右には金の瞳に黒く細長い瞳孔を持った目が現れているという姿になっていたからだ。
腰にはスパンフリンジが飾られた淡い水色のヒップスカーフが巻かれ、太く逞しい鳥の脚が現れている。その後ろからは金色のクジャクのような飾り羽が下がっていて、その中心部分は赤で外側に行くに連れ金に色を変えている。
まるでそこにたくさんの目がついているように見えるその姿は、図書館にある怪談の本に登場する妖怪なんて可愛いもののように思えるくらいにトルトの姿は恐ろしく見えて、四人はこの場から早く逃げ出したいと思ったが、足がすくんで動かす事ができず、蛇に睨まれた蛙のように立ち尽くしていた。
「貴様、その姿は……」
ジャニファもトルトの変わりように戸惑い言葉を失っている。ようやく絞り出したか細い声は震えていて、聞こえるか聞こえないかの小さなものだった。
「あるとき親切な妖精がいました。封印の祠で助けて、と言ったら助けてくれたのです。そうそう、名は確か……あぁそうそう、トルトと言った気がしますね」
両手ーーというより両翼をポンと合わせてジャニファを覗き込むように首を傾げた。
「なんだと……貴様、トルトに、お姉様に何をした!」
「少し体を借りただけですよ。まあ、借りた時にはもう消えてしまいましたけど」
だからこの体は自分のものだと言わんばかりにくるりと回ると、スパンフリンジが軽やかな音を立てた。
「では私の羽を奪ったのは貴様か……お姉様ではなく……!」
「だってあなた、素直に記録官の位を譲らないから」
悪びれもせず、唇を尖らしてジャニファを見つめて首を傾げた。
「これからは妖精の国をこの四天が女王となり直々に治めましょう」
「まて、四天だと?! 貴様、四天なのか? 何故四天がここに?! 四天は精霊王によって封印されたはず……」
「ええ、確かに。あなたのお父様である精霊王と、人の子によってね。ですが月の精バライダル。あなたもまた父上と同じ過ちを犯すと知って、いてもたってもいられずにこうして舞い戻ったんですよ」
まるで飴玉のように艶やかな金色をした四天の眼球がジロリと動き、ユンリルとバライダルに向けられた。