二人の真実
バライダルとユンリルが見つめ合う光景が、まるで絵本で見たような王子様とお姫様のようで、四人は戸惑った。バライダルとユンリルは敵同士ではなかったのか、と四人は顔を見合わせて首を傾げた。
「ジャニファさん、あの二人って……」
「あぁ、お二人は将来を誓い合った仲だ」
かれんの問いになんでもないことのように答えて、ジャニファは四人に二人をそっとしておくように注意した。
バライダルとユンリルは手を握り見つめ合いながら何か話しているようだが、彼らが何を話しているのか全くわからない。
「恋人だなんて知らなかった……だってあの二人は敵同士だって……女王様をさらって妖精の国を乗っ取ろうとしてるって……」
ジャニファやバライダルから女王を守ろうとしていた自分たちの今までの行動は、全て間違っていたのかもしれない。そう思えて美玲は胸が押しつぶされるように苦しくなった。
「水の少女よ、その話は後だ。トルト……覚悟しろ!」
ジャニファは美玲にそう言うとトルトに短剣の刃を向けた。だがトルトはふんと鼻で笑い自分の下唇に指を這わせて口角を上げる。
真紅の瞳が強気の光を帯びてジャニファをまっすぐにみつめた。
「お前にこの姉を倒せると言うのですか?女王ユンリルの力を得たこの私に!」
「黙れ!私の羽を奪ったときから、お前はもう姉ではない!陛下の力も返してもらう!」
怪しげに微笑むトルトに、黒い蝶の羽を広げて飛び上がったジャニファはためらいなく短剣を振り上げた。
「雷斬波!」
そして短剣の刀身に雷を纏わせ、大剣へと変化させるとそれを一気に振り下ろし急降下してトルトに斬りかかったが、しかし。
「遅いですよ!」
「何?!」
トルトは杖を横に持ちなおすと、ジャニファの作り出した雷の刃を涼しい顔で受けた。凄まじい衝撃音と風が巻き起こり、美玲は思わず腕で顔をかばうようにした。
風が収まり、美玲がうっすらと目を開けて様子を伺うと、ジャニファはググ、と柄に体重をかけ、力ずくで杖ごと押し切ろうとしているのが見えた。だがトルトの表情は崩れもせず、涼しい顔で余裕の表情である。
「女王の魔力を得た私に敵うわけがないでしょう?彩虹矢!」
「っく!」
トルトが唱えると虹の矢が出現し、まるで雨のようにジャニファへと降り注いだ。
ジャニファは羽を羽ばたかせてトルトから距離を取ると、怪我をしたのか手の甲をペロリと舐めた。だが視線はトルトから外さないまま、鋭い視線をトルトへ送ったままで隙を見せずに彼女の動きに警戒している。
「そんなに睨まないでください。これは喜ばしいことなのですよ?女王の力が私のものになるということは、ここが、そして精霊の世界が元に戻るということなのです」
「元に、戻る?どういうことだ?お前は記憶の書を使い国の人々を都合よく操っていたではないか
「そう、それは今日のために必要なことでしたので。ようやくこれで戻るのです。妖精の国も精霊界も。全てが四天の定めし秩序ある世界へと! 」
高らかにトルトが叫ぶと、彼女の持つ杖から光が放射状に放たれ、それはまるで毛糸のように絡み合い、光の繭玉となってトルトを包んだ。