奪われたもの
四人は固まって、途中までできた黄水晶のドームに身を低くして隠れ、最悪炎に飲み込まれるかもしれない覚悟してきつく目を閉じた。
「星円鏡! 」
勇ましく唱える声が聞こえ、四人が恐る恐る目を開くと鏡の盾を出して炎の渦をジャニファが食い止めていた。
「ジャニファさん! 」
「あのな、人の子らよ。 我もおるのだがな……っ! 」
少しがっかりしたようにバライダルがそうぼやきつつ、炎の渦を大剣“月船”で叩き切った。
散り散りになり勢いを失った炎は火の粉となって消滅する。
二人の姿にかれんがぱあっと表情を明るくし、未完成の黄水晶のドームから飛び出るとジャニファとバライダルに駆け寄った。
美玲と市原、志田の三人もホッとして緊張を解くとかれんに続いて二人の元へと向かう。
「お前たち、大丈夫か? 」
「はいっ、ありがとうございます」
ジャニファの問いかけに返したかれんの弾むような声に美玲たちも頷くと、四人が無事なことを確認したバライダルとジャニファはトルトへ向き直った。
「次に消えるのはお前だ、トルト! ユンリル殿を離せ! 」
バライダルが月船を下段に構え、トルトへと一気に距離を詰めた。
「ふ、呑気ですね。もう遅いですよ! 」
「きゃ……っ! 」
だがバライダルの刃がたどり着く前に、トルトはユンリルの結い上げた髪の根元に押し当てていた刃を上へと振り上げた。ざり、と重たい音がして、床につくくらい長く美しかったユンリルの髪はざんばらに切られてしまった。
切り取った光り輝く女王の金の髪を掲げ、高笑いをするトルトの姿に、その場にいた誰もがあぜんとして彼女を見ていた。
「女王の魔力の源である、髪を、ついに、この手に……!」
トルトは切り落としたユンリルの髪を高く掲げた。そしてその髪は白く輝いたかと思うと、トルトの杖の先端にある精霊石へと光の粒子となって吸い込まれていった。
そしてトルトはもう用はないと言わんばかりにユンリルを無造作に投げ出した。
ようやくトルトの手から解放されたユンリルだったが、短い悲鳴をあげると支えを失って床にゆっくりと倒れていく。
「ユンリル殿っ! 」
月船を投げ捨て、両手を空けたバライダルが駆け寄り床に落ちる前にユンリルを支えた。
ユンリルの背中の白く光る羽は色を失い、切れかけの蛍光灯のように、今にも消えそうに不規則に点滅している。ティアラとリストレットを彩っていた花々も瑞々しさを失い、茶色く枯れてしまった。
「ユンリル殿っ! 」
バライダルが呼びかけるが、ユンリルはぐったりとしてピクリとも動かない。
「嘘……っ」
美玲は目の前が暗くなるように感じた。かれんは言葉を失って口元を両手で覆い、市原と志田もユンリルから目をそらし、うつむいている。
「ユンリル殿っ、ユンリル殿!! こんなことになるならば、やはりあの時、あなたを無理にでも常夜の国へ連れていくべきだった……」
目を閉じたままのユンリルを抱きかかえたまま、バライダルはその額に口付けた。
「バライダル、殿……」
力が抜けてだらりと垂れ下がった腕を震わせて、ユンリルがバライダルの頬に触れた。
「ユンリル殿、お気づきになられたか」
バライダルはその手を握り返し、うっすらと目を開けたユンリルを愛おしげに見つめた。