ちぐはぐなお礼の言葉
トルトの口から出た恐ろしい言葉にユンリルはリストレットを構えた。花々に埋もれながら中央に飾られた透明な精霊石が輝きを増して行く。
「トルト……わたくしに同じ手が二度も通用すると思ったら大間違いですよ!光雨礼賛!!!」
ユンリルがリストレットを高く掲げるとトルトに向けて光の槍が激しく降り注いだ。光柱の間に凄まじい破壊音と煙が舞い上がる。
その激しさにトルトを仕留めたように思えたが、ユンリルの表情は冴えない。
「おやおや、陛下はまだ寝ぼけておられるようですね」
「く……っやはり! 」
いつの間に回り込んだのか、ユンリルの背後にトルトが現れてその長い蜂蜜色の髪を掴み上げた。
「あぁっ!」
「そう、この髪です……この長く美しい……」
強い力で髪を引っ張られ、ユンリルは苦痛に顔を歪めている。
「やめて、女王様を離して!トルトさん!」
かれんが絶叫し、美玲は目の前の光景が信じられなくて首を振った。市原と志田は状況が飲み込めないのか険しい顔でトルトから視線を離さずに武器を構えたまま立ち尽くしている。
「皆様、陛下を目覚めさせてくださりありがとうございます。女王の魔力を秘めた髪……これがあれば妖精の国は救われます」
ユンリルの髪を掴んだままトルトが四人に礼を言った。だがトルトの行動とセリフが合わず、美玲たちは混乱し、互いに顔を見合わせている。
女王を目覚めさせれば妖精の国が救われるはずなのに、目覚めたユンリルの髪をトルトが掴み上げ、さらにその髪を奪うだなんて美玲達の誰もが想像もしていなかった光景だった。
「どうしよう、女王様を助けなきゃ……っ!」
美玲のつぶやきに呆然と立ち尽くしていた皆はハッとして、それから互いに頷くとそれぞれの武器を構えた。赤、水色、黄緑、黄色と精霊石に光が灯る。
四人は深く意識を集中させ、身の内に秘めた力も、周囲に漂う要素もかき集めて大きな力に変えた。
「雹嵐舞(グランディー二・トルネード)!」
「火炎晶!」
まずは美玲と市原が雹の嵐を巻き起こし、かれんと志田が炎晶石を召喚した。美玲たちが作り出した雹が脆い炎晶石にぶつかり、爆発を引き起こしていく。
炎は嵐に巻き上げられ、トルトを飲み込んだ。
「くっ!」
巨大な炎の渦にトルトが怯んだ隙ににユンリルはその手から逃れることができた。
トルトが上げたその短いうめき声に、これだけの合体魔法を食らったら無事では済まないだろうと四人は思った。