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目覚め


 美玲たちはユンリルの眠る檻に身をかがめているトルトの背後にたどり着いた。


「トルトさん!」


 かれんがバトンの先端についている精霊石をトルトに向けて鋭く呼びかけると、トルトは唇に人差し指をあてながら振り返った。


「お静かに。さあ、お目覚めください女王陛下」


 トルトの呼びかけに、ようやく女王ユンリルのまぶたがピクリと震え、反応した。そして柳眉をしかめながらゆっくりと持ち上げられたまぶたの奥に、琥珀色の瞳が覗く。


「ト……ルト?」


 女王の目覚めにトルトは感極まったのか、口元に手を当てて涙を隠すように顔を逸らした。

 トルトのその様子からは、とてもユンリルに危害を与えるようには見えずに、四人はただ立ち尽くしてその様子を見ていることしかできなかった。


 ユンリルは檻のあった場所から上体を起こして辺りを見回した。

 緩やかなウエーブがかかった蜂蜜色の髪は、オレンジのリボンで頭頂まで結い上げられ、それはさらりと流れて陶器のように白い肌が覗いた。トルトが灯した薄明かりの中、まるでその白い肌自体が輝いているようにも見えた。

 ユンリルが戴く花冠に活けられた花々は、トルトが灯した光を受け生命力に満ち鮮やかに輝いているようにも見える。


「……ここは光柱ルクス・カラムの間、ですね?」


 さくらんぼのような薄紅色に染まる頰に手を添えながら、ユンリルはまだ状況が飲みこめていなのか、せわしなくあたりをきょろきょろと見回しながら、鈴を転がすような澄んだ声でトルトに尋ねた。

 だが感極まったためかトルトは言葉を返せずにうなずくばかりで、ユンリルは無言で差し出されたトルトの手を借りて立ち上がると、左手に飾られているリストレットのリボンをなびかせながら金木犀の檻からようやく出た。


 長い間眠っていたためかユンリルは履いているパステルオレンジのパンプスで床に不規則な音を立てながら床に降り立つ。そしてユンリルが、うんと伸びをするとその背中にあった白銀の羽が広がり、二、三度羽ばたいた。あまりにも美しいそのユンリルの姿に四人の口からは思わず溜息が出て、まるで夢の中にいるのかと思うくらいの美しさである。


 彼女が身にまとっているものは百合の花のように先端が反った、ふわりとしたアイボリーカラーのベルラインドレスで、それは薄オレンジのオーガンジーリボンが飾られたホルターネックになっている。

 胸元には金木犀を模したネックレスが飾られ、彼女が金木犀の妖精であることを伝えている。そしてそこから足元にかけて散りばめられたオレンジ色の小花もやはり金木犀の花だ。

 そのため光柱ルクス・カラムの間にふわりと漂う金木犀の香りは一段と強くなった。


「どうして、ここに……わたくしは確か中庭で……そう、中庭で……」


 ユンリルはひたいに手を当てながら何かを思い出そうと眉間にしわをよせた。そしてゆっくりとトルトを振り返った。


「どうしたんだろ」


 ユンリルの変化にかれんが心配そうに呟き、美玲と顔を見合わせるが、誰にもその理由はわからない。

 だが何かを思い出したユンリルのその美しい顔はみるみるこわばり、薔薇のように色づいたほおは青ざめていき、さくらんぼのような唇は白くなっていた。


「そう、わたくしは中庭で、あなたに……っ!」


 ユンリルはパンプスの音を立てながらあとじさり、トルトから距離を取ろうとしたようだが、背後にあった金木犀の檻に阻まれた。 ユンリルは右か、左か、と逃げ場を探すように辺りを見回した。


「はい、今度こそ陛下……あなたの御髪おぐし、頂戴いたします」


 そんなユンリルに悠然と杖の先端を向け、トルトが氷のように冷たく深い笑みをうかべた。

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