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かれんの裏切り?

 トルトが女王の元へと向かうのを察知したのか、バライダルは水晶群のドームを強く叩き出した。


「いかん、早く我をここから出せ!」


 ぐるりと彼を囲む水晶群の中は外から見てもわかるほど狭い。大剣も振るえず新月のために力も使えないバライダルはなんとか水晶群を内側から破壊しようとしている。


 しかし分厚い水晶の壁は何度叩いてもヒビすら入らず、尖っている先端スポットが内側を向いているために彼の籠手は今にも砕けてしまいそうなほどボロボロになっている。


 腕の力ではダメだと全身の力を使って体当たりをし始めているが、むき出しの腕が傷ついていくだけでそれはビクともしない。


 その間にもトルトはドレスの裾をつまみ女王の元へと小走りにすすんでいく。光柱ルクス・カラムの間にはコツコツと床を蹴る靴音だけが響いていた。


「ねぇ、どうしてあんたはそんなに女王様を起こすのを邪魔をするんだよ」


「あの妖精は、女王の力を奪う気だ。彼女が眠りについたのもあの者が彼女の力を奪おうとしたせいなのだ。彼女は自分の身を守るためにあの金木犀の檻を作ったのだ」


 市原が尋ねると、返ってきたバライダルの答えはとても信じられないものだった。

トルトが女王の力を奪おうとして、しかもそのせいで女王が檻の中で眠ることになったなんて。


「またそんな嘘……」


「嘘ではない!火の娘よ、そなたはわかっておるのだろう?我の言う事の方が真実であると!」


 市原だけでなく、美玲と志田も呆れてため息をついた。バライダルは水晶群のドームの向こうから、気を失ったジャニファに回復魔法を使っているかれんに呼びかけた。


「あの妖精をあの方に触れさせてはならぬ。そなたは知っているはずだ!」


 すりガラスのようになっている水晶壁の向こう側に見える、鮮やかな紫の瞳に見つめられ、かれんはうなだれた。


「そなたは勘の鋭い娘だ。その予感は……」


「ちょっと、かれんに変なこと言うのはやめてよ!かれん、こいつの言うことなんか聞く必要ないよ!」


 美玲がバライダルの言葉をさえぎって、かれんの肩を掴み紫の瞳から目をそらさせたが、かれんはゆっくりと肩を掴む美玲の腕をほどいて首を振った。


「ごめん、みんな……」


 そう言うと、かれんは座ったままでバトンの先端をバライダルを包む水晶群へと向けた。


「おい待てよ久瀬、どうする気だ?」


火焔舞花フィアンマ・アパッショナート


 志田の問いには答えず、かれんは淡々と呪文を唱えた。


「久瀬、おい、なに考えてるんだよ!」


「かれん、何で……やめて!」


 市原と美玲も、かれんがなにをしているのかすぐには理解できなかった。


 水晶群のドームは、花のように舞う火の粉が触れた部分から、赤く光りながらまるで氷が溶けるように消えていく。


「かれん?やめて、かれん!そんなことしたら……!」


 美玲が強制的にかれんのバトンを下げる。魔法が中断され、火の粉は消えたがバライダルを閉じ込めていた水晶群は半分くらいに溶けてしまっていた。


 下半分しかなくなった水晶のドームから出るバライダルの姿は、まるで卵から生まれたばかりのひよこのようだ。

「はぁあああっ!!」


 しかしそんな可愛らしいものではないバライダルは大剣“月船”を構え、一気に残りの水晶群を力任せに砕いた。月の力がないため魔法が使えない彼は自身の力だけがたよりだった。


「火の娘よ、感謝する」


「行ってください」


 バライダルが破壊した透明な石のかけらが、砕け散ったガラスのように床に散らばっている。


「待てよ!」


「邪魔をするな!子どもだとて容赦はせぬぞ」


「ーーーっ!」


 武器を構えて立ちはだかった市原はバライダルの怒気に戦意を喪失したようで膝から崩れ落ちた。


 それを見ていた志田と美玲も怒気のあおりを受け、体が恐怖で震えて止まらなくなっている。


「なによ、これ……」


 震える手ではまともに武器も握れなくなり、これでは魔法を使うことはできない。市原と志田と美玲の横をバライダルはゆっくりと歩いていく。


 怒気をまとった彼が脇を通り過ぎるまで、三人は生きた心地がしなかった。


 そして散らばった水晶の残骸を踏み越えて、バライダルはまだ横たわったままのジャニファをゆすり起こした。


「我が主人あるじ……」


「大事ないか、夜の子よ」


 銀のまつ毛が持ち上がり、バライダルの姿を見つけたのかアイスブルーの瞳が揺れた。


 ぼんやりと焦点の定まらない様子でいたジャニファだが、すぐに彼女の目に光が戻って居住まいを正した。


「は、火の娘のおかげで。それよりも陛下を」


「うむ、急ごう」


 バライダルとジャニファはトルトを追って女王の檻へと向かって行った。三人はバライダルの怒気に震えたままで止めることすらできずにただ彼らを見送るしかできなかった。


「おい久瀬!何してんだよ!せっかく捕まえてたのに」


「まさか、またあいつらに操られているの?」


「ちがうよ。私は大丈夫」


「じゃあ、なんで……?」


 かれんは美玲の問いにまるで何かを納得させるように頷いて顔を上げた。


「志田くんは覚えていないの?」


「は?何のことだよ」


 バライダルを閉じ込めたドームをかれんに壊された志田は、不機嫌のために返す言葉の口調はきつい。


「私たちがあの人たちのところにいた時のことだよ」


 だがそんな彼の様子にも怯まず、かれんは立ち上がってスカートについた水晶のかけらを払った。

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