精霊王と常夜王
美玲たちが中央の白の台座にたどり着くと、精霊王とトルト、バライダルとジャニファの両組は睨み合ったままだった。
ピリピリと空気すら緊張しているその場に、違う世界から来た四人はまるで場違いなような気持ちになって居心地が悪かった。
だから四人は白の台座に来たものの、その台座を囲む柵の陰に隠れて様子を伺うことしかできずにいた。
美玲たちが中央の白の台座にたどり着いた時はまだ、精霊王とトルト、バライダルとジャニファの両組は睨み合ったままだった。
ピリピリと空気すら緊張しているその場に、違う世界から来た四人はまるで場違いなような気持ちになって居心地が悪かった。
だから四人は白の台座に来たものの、囲む柵の陰に隠れて様子を伺うことしかできずにいた。
『貴様、新月に無理をして来たのか。ご苦労なことだ』
精霊王も彼の傍らに居るトルトも、バライダルたちの出現を知っていたかのように落ち着き払っている。
「新月の時を選ぶとはな。あなたの考えそうなことだ」
精霊王の光を受け、バライダルの手首を守る紫色の籠手が鈍く光った。
『相変わらず口だけは達者だな、月光の精よ』
精霊王が翼を薙ぐと風の刃がバライダルとジャニファに向けて襲いかかった。
だがその風の刃はバライダルの大剣に阻まれ、掻き消えてしまった。
『ほう、“月船”か。ならば』
次の瞬間、精霊王は、長身の男性に姿を変えた。
巨大な鳥から人の姿になった彼は、限りなく白に近い金の髪を後ろに流し、赤いラインの入ったクリーム色のジャケットをまとっている。
そして真紅の鞘から鈍い銀色の光を放つ大太刀をすらりと抜き、バライダルに切っ先を突きつけた。
『我が愛刀“晴天”にて相手をしてやろう』
精霊王は鏡面のように姿を映す床を蹴り、バライダルに迫った。甲高い金属音を立て、バライダルの剣がそれを受け、大剣同士斬りむすんでいく。その度に激しい金属音が響き、空気が重たく震える。やっと静かになったかと思えば双方引かない鍔迫り合いになっていた。
だが身長も体格も精霊王の方が上だ。全体重をかけられバライダルの足はジリジリと後退していく。
「そろそろ、子離れしてくれませんかね!」
バライダルは力を抜き、精霊王の大太刀を受け流すと背後に飛び退って間合いを図った。精霊王は「ふふ」と笑い、楽しげな顔で大太刀を構えなおした。
『子が誤った道を進もうとするのを止めるのも、精霊の父たる儂の役目よ!』
精霊王が身を低くし大太刀を振るって自分から距離をとったバライダルに迫った。
「くっ!」
バライダルは武器を素早く横に構えると、銀の刃がその身体にふれるのを防いだ。
『ふん、あの檻ごと常夜へ持って行って何になる。新月の今、お前が彼女を目覚めさせることができたとしても、精霊である限り金木犀の娘とは成就しない。精霊と妖精は結ばれない。それが四天の定めた世界の理なのだ』
再び鍔迫り合いになり、同じ紫の瞳が間近に睨み合い火花を散らす。
「だからなんだと言うのだ。我はあの人を守りたいだけだ!」
『世の理も守れぬ青二才め』
「なんとでも言うがいい。理など知ったことか。ジャニファ、あの人を」
「はっ!」
間近に睨み合う相手から、目をそらさず出されたバライダルの命令を受けて、主人を見守っていたジャニファは女王の檻に向けて駆け出した。
「お待ちなさい、ジャニファ!いつぞやのようにその羽を燃やされたいのですか?」
だがその行く手を阻むようにトルトが両手を広げて立ち塞がり、持っている杖の先端をジャニファに向けた。
濃いピンク色の精霊石が光を増していく。
「主人の望みのためならば羽など惜しくないわ!そこをどけ、トルト!」
杖の先端から光の矢が放たれ、ジャニファは間一髪作り出した雷の刃をまとった短剣でそれを防いだ。
「トルト、私はもう、あの時のように遅れはとらない。覚悟!」
ジャニファはそう言うと、雷をまとわせた短剣を振り下ろした。