乱入者
“何か”に弾かれた精霊王の翼から光り輝く羽がハラハラと舞い落ちた。床に落ちたそれは蛍のように白くほのかに光り、薄暗い床を照らしている。
『ほう、来たか……』
初めて聞く精霊王の声は、落ち着き払った低い男性のものだった。
その声に焦りはなく、まるで自分の羽を散らした存在が誰かを知っているようだ。
「忘れたか?全ての属性により開かれるのは精霊界の扉だけではないことを」
闇を裂き、そこに現れた者を見て美玲は息を飲んだ。
「バライダル……!」
先ほど精霊王の翼を撃ったのは、バライダルが放ったものらしい。
バライダルはその長い金の髪を結い上げ、地精霊谷で会った時にまとっていた長衣の代わりに、夜闇のような深い紫の胴衣を纏っている。
そしてたくましい二の腕を惜しげもなく晒して、三日月のような刃の大剣を担いでいる。
「バライダルだけ?」
美玲は彼の傍らには黒衣をまとったジャニファがいるのに気づいた。小柄なためバライダルの大きな剣に隠れてしまっていたが、彼女もまた刀身の青い短剣を構えて精霊王とトルトを睨むように見ている。
「大変、行かなきゃ……」
バライダルたちに精霊王の邪魔をされたのでは、女王を目覚めさせることができず、元の世界に帰ることもできない。
「永倉、立てるか?」
「市原」
なんとか膝に力を入れて立ち上がろうとしていると、いつの間にやって来たのか、市原が美玲の手を掴んで立たせてくれた。
ようやく立ち上がった美玲が市原の手を借りて台座から降りると、志田に支えられてかれんも水の台座へとやって来た。
かれんの姿をみて、美玲は慌てて市原の手を離した。
「美玲……」
かれんもひどく消耗しているのか、顔色が良くない。
市原と志田は疲れた顔こそしているが、美玲とかれんの二人とは違って、しっかりとその場に立っている。さすが、いつも学校にいる時も夏休みでもグラウンドで運動している二人である。
「まさかあいつらが現れるなんて思わなかったよな」
志田は精霊王たちがいる方をみて、ひたいに手を当ててため息をついた。市原もどうしたらいいかわからないと言う風に腕を組んで何か考えているようだ。
「美玲、やっぱりジャニファさんは敵なのかな……」
かれんは、もしかしたらいい人かもしれない、とジャニファに密かに期待していただけに、彼らが儀式に乱入してきたことがショックだったようでうなだれている。
「かれん……」
そんなかれんにどう言葉をかけていいかわからず、美玲はそっとその肩に手を置いた。
「とにかく俺たちもあっちに行ってみようぜ」
ここで四人が顔を付き合わせて事態が変わる訳でもない。
市原の提案にそれぞれ顔を見合わせて頷くと、バライダルと精霊王たちが睨み合う、光柱の間の中央へと進み出た。