表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
107/215

精霊王召喚の儀式

 地下にある、光柱ルクス・カラムの間の前に四人は立ち、緊張に顔を強張らせていた。


 いよいよ女王を目覚めさせる時が来たのだ。


「俺が付き添えるのはここまでなんだ。四人とも、頑張って」


 そう言って、まるでコンサートホールの出入り口のような分厚い扉をフレイズが開くと、女王がいるためかふわりと金木犀の香りが漂ってきた。


「さあ、みんな」


 扉の向こうは足元がやっと見える位の暗さで少し腰が引けたが、再びフレイズに促され、意を決して四人は中に入った。


「フレイズ……」


 美玲が振り返るとフレイズは「頑張って」と手をヒラヒラと振り、その扉をゆっくりと閉じた。


「大丈夫、大丈夫……」


 緊張をほぐすように、美玲は昨夜フレイズにもらったブレスレットに手を添わせた。


 やがて扉が全て閉じられてしまうと、辺りは暗闇に包まれた。城の地下にあるこの場所に窓はなく、まるで映画が始まる前のように真っ暗だ。


 だが映画館のように足元にライトがあるわけでもないので、どこにどう進めばいいかわからない。


 しかし、だんだんと目が慣れてきて、四人はお互いの顔や立っている場所はぼんやりとわかるようになった。


「あ、あれ何かな」


 かれんが指差した方をみると、女王の眠る金木犀の檻にうっすらとした光の柱が降り注いでいるのがみえた。


 四人はその光の柱がある場所を頼りに進むことにした。


 光の柱に近づくごとに金木犀の香りも強くなっていく。そしてその甘い香りは四人の緊張をほぐしてくれた。


「皆様、お揃いですね」


「わっ!」


 女王の檻を照らす光の柱があるところ以外は暗闇で、突然杖の先端に光を灯して現れたトルトに志田の悲鳴があがった。


「志田、おどかすなよ!」


「ごめん、だって、びっくりしたんだもん……」


 志田の悲鳴に驚いた市原が志田を小突くと志田はばつの悪そうな顔をして謝った。


 一方、美玲とかれんは驚きに言葉も出ず、手を握り合ったまま固まっていた。


「申し訳ありません、驚かせてしまいましたね。さぁ、皆様、それぞれの精霊石の台座へご案内しましょう」


 四人の様子に苦笑しながら、トルトは光の柱の周りにある台座へと四人を順に導いた。


「まずはこちら、地の台座です。サトル様」


「は、はいっ!」


 志田が授業参観の時のような緊張気味の、しかし歯切れのいい返事をして上がると台座が黄色く輝いた。


「サトル様はこちらでお待ちください。次はあちらです」


 斜向かいを指し、再び歩き出したトルトの後ろで、かれんがしきりに首を傾げて両腕をさすっていた。


「かれん、具合悪いの?」


 しかしかれんは首を振り、視線を落としたままため息をついた。


「ちがうの、不安なの。何かよくないことが起こりそうで……」


挿絵(By みてみん)


「ミレイ様はこちらに。水の台座です」


 だが話の途中で、今度は美玲がトルトに呼ばれた。


「あ、はい。かれん、大丈夫だよ。心配ないって。女王様を起こすだけなんだから」


「う、うん……」


 まだ不安そうにしているかれんが心配だったが、トルトに再び呼ばれて美玲は水の台座の上に立った。


 水色の光がふわりと立ち上り、それを確認したトルトは市原とかれんを連れて次の台座へと向かった。


 美玲の右隣が火の台座なのだろう。かれんがトルトに促され、そこに立つと赤の光が立った。最後まで残っていた市原も風の台座にたどり着き、そこからは黄緑の光が灯った。


 そして四つの台座から光が伸び、交差するところに白い光を放ちながら台座が現れた。そこにトルトが進み出て乗ると、白い光が彼女を包んだ。


「皆様、精霊石を掲げ、召喚をお願いします」


 ついに始まるのだ。そう思うと美玲の心臓が鼓動を早めた。じわりと武器を握る手に出てきた汗を服の裾に拭った。


そして四人は精霊石を掲げて各自の上級精霊ハイクラス・スピリットを召喚した。


地王ランド!」


水皇セイレーン!」


炎帝イフリート!」


風主ジン!」


 美玲たちは精霊石に集中し、呼び出した上級精霊たちに力を送っていく。


 地王ランドは爪を、水皇セイレーンは鉾を、炎帝イフリートは曲刀、風主ジンは矢をつがえた弓をそれぞれ掲げると、彼らの武器から放たれる光が中央に集まり、大きな光の球をつくりだした。


 その光の球が大きくなるにつれ、美玲たちが立つ台座の光もだんだんと強くなっていく。


 武器を掲げた腕の先から、光の球に力を吸い取られていくのを強く感じた。


 練習の時よりも力の吸収が早く、体ごと球体に引っ張られてしまいそうになる。


 そのあまりの力強さに、まだ儀式が始まったばかりというのに四人の体力はすでに限界だった。


 美玲が膝をつきそうになったその時、トルトが杖を掲げた。


「四属性を合わせし光の球よ、鍵となりて精霊界の扉を開け!あらゆるものの父、偉大なる精霊王よ今、ここに現れ出でよ!」


 トルトが呪文を唱え終わると、彼女の立つ台座から白い光が球体に向かって伸びた。


 まっすぐに伸びるそれは、まるで鋭い矢のようである。


「えっ?!」


 まさか、とかれんが不安に思っていた言葉を思い出し、心に嫌な予感がよぎった美玲が声を上げたと同時に、それが球体に当たるとあっという間に亀裂が走り、ガラスが割れるような音を立てて光の球体は砕け散ってしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ