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紫の瞳

 淡く鈍い、白い月の光が照らす静かな影の地に、黒い羽を羽ばたかせながらジャニファは降り立った。


 羽織っていた漆黒の外套を外して簡単にまとめると、それを片手に持って足早に常夜の館の中へと入って行った。


 所々に生じている、淡い光を放つ水晶群の輝きを受けた雲母がきらめく黒い床に、靴音を響かせてジャニファはオレンジの光が漏れる部屋の扉を開いた。


「我が主人あるじ、ただいま戻りました」


 息急き切ってそう言いながら進み、部屋の主人であるバライダルが座る椅子の前へ転がるように跪いた。


「戻ったか、ご苦労であった」


「は、もったいのうお言葉、いたみいります」


 バライダルからのねぎらいの言葉に恐縮して頭を下げたジャニファは、さらに頭を低くした。


「して、例のものは?」


「はい、こちらに」


 尋ねられて慌てて手渡し、下がる。バライダルは受け取った記憶の書をパラリとめくると、「ふむ」と唸ってぱたりと閉じた。


「して、一番新しいものは?」


悠然と玉座に座るバライダルに紫色の瞳を向けられ、ジャニファはうなだれた。


「申し訳ありません、そちらは人の子により阻まれました」


「人の子……水の娘らか」


「いえ、火の娘と地の少年です」


「ほぅ、意外だな」


 ジャニファの返答に驚いたように目を見開いた。そして玉座から立ち上がると何か考え事をするように顎に手を当てた。


「火の娘と地の少年が力を使えるようになったと、そういうことか?」


「はい。火の娘らは自らの意思で火の矢を放ち、水晶の壁を作っておりました」


 具体的な様子を伝えると、バライダルは「そうか」と頷くと再び玉座に腰を下ろした。


 だがまだ考え事をしているのか、左手は顎に添えたままだ。


「もう一冊はすぐに取りに参ります。今しばらくの時を……」


「いや、全てはあの方の目覚めの後だ。取りに行くのはそれからでも遅くはあるまい」


「ですが、それでは……!」


 縋るように言ったジャニファの言葉を右手を上げて遮り、ゆっくりと目を閉じて言うバライダルに納得いかないとジャニファが反論しようとしたが、再び紫の瞳に見つめられて言葉を飲み込んだ。


「 わかっておる。覚悟せねばならぬであろうな。そのほうの大切な者も、これから“書き換え”られないように避難させておくといいだろう」


「わたしの大切な者、ですか……」


「うむ。おそらく奴はまた“書き換える”であろうからな。ここにいればそなたのように影響は受けまい。誰か心に浮かぶものは……いるようだな」


「我が主人あるじ……!わ、私はこれにて失礼いたします」


 微笑まれ、心の内を見透かされていることを知ったジャニファは咳払いを一つし、退室の許可を願い出て玉座の間を後にした。


「目覚めの時は近い、か……急げよ、ジャニファ……我らのように手遅れになる前に……」


 残されたバライダルは天井を仰ぎ、そう呟いた。

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